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採用活動の支援を目的とした採用オウンドメディアを立ち上げる企業が増えています。
社内の情報を記事として一般に公開することで、認知獲得や、候補者への魅力づけに繋がるといわれています。
一方で、オウンドメディアが採用に与える影響は可視化しにくいものです。
そこで今回はナイル株式会社の渡邉慎平さんに、採用オウンドメディア「ナイルのかだん」の運用、そして採用活動への効果についてお話を伺いました。
《プロフィール》
ナイル株式会社 社長室 採用人事マネージャー 渡邉慎平さん:
慶應義塾大学卒業後、ナイル株式会社(当時ヴォラーレ株式会社)に新卒入社。300社以上のWebマーケティング支援に携わり、30名弱の組織のマネージャーを経験。2018年5月に社長室に異動し、採用と広報を担当。
ナイル株式会社:
ナイルは「100年後の世界に贈る」社会の前提となる事業創造を目指すデジタルマーケティングカンパニーです。SEO技術、UX/UI改善、データ分析などのマーケティングノウハウを強みに、Web/アプリ/自動車の3つの領域での事業展開を行っております。2019年4月、トヨタ社や三井住友銀行を出資者とする未来創生ファンド2号を運営するスパークス・グループなどから「15億円」の大型資金調達を実施し、今後は自動車×Techのさらなる投資を加速させるとともに、既存事業とシナジーのある企業のM&Aなども検討し、全社的な多角化・挑戦を行っています。
目次
企業イメージと実態のギャップを埋める手段がオウンドメディアだった
ー まずは、ナイルの採用目標について教えていただけますか?
今年度のナイルは70職種120名の採用計画で採用活動を行っています。
職種の多さからも分かるように、1職種で複数名を採用することはまれで、ほとんどの職種ではピンポイントで1-2名の採用を行います。そのため「Rubyエンジニアを5名」といったような開発言語経験での母集団形成や一括採用ができません。
ー One to Oneでマッチした人を1名採用する、というようなイメージですかね?
おっしゃるとおりです。
ナイルには、デジタルマーケティング、スマートフォンメディア、モビリティサービスという3つの事業があります。「この事業のこのサービスのこの職種」というように明確な採用要件があるため、多くの候補者を集める母集団形成という概念はないんです。
ー 採用要件が明確なのは素晴らしいですね!一方で採用はとてもむずかしい印象を持ちました
そうですね、難しいです。
更に難しい点としてナイルの採用要件は、全社のカルチャー、各事業部のカルチャー、プロダクトとの相性・興味領域、そして職種としての相性というすべての変数をクリアしていないといけないんです。つまり、ミルフィーユのような多層構造的な採用の変数を満たす必要があります。
ー そういった難しい採用要件を持つ中で、そもそもなんでオウンドメディアを始めようと考えたんですか?
これまでのナイルの企業イメージは「東大イケメン社長の会社」「SEOの会社」というものがほとんどでした。
間違ってはいないんですが、月間1,000万人以上の方に利用されるアプリメディアを持っていたり、や新しく立ち上げたオンラインカーリースサービスも月間数千件の審査申し込みを頂くほど成長していたりと、どんどん新しいカラーが生まれています。
でも、先ほどお伝えしたような局所的なイメージがまだ強く残っており、会社の実態とイメージが異なっているということに課題を感じていました。
実際のナイルの姿を社外にも見せていきたいと思って「生のナイル(飾らないありのままの姿とフレッシュな情報)」というテーマで「ナイルのかだん」というオウンドメディアをはじめました。
開始当時は代表の高橋が人事管掌役員だったので、高橋を含めてコンセプトをディスカッションし、私がディレクターとしてメディアを立ち上げました。。
認知度獲得よりも採用CVR向上。ナイルが実践する“狭報”
ー 「ナイルのかだん」は採用にどのような影響を与えているんですか?
前提からお話しますね。多くの採用オウンドメディアが認知度の獲得を目的にしている一方で、現在ナイルでは広報ではなく“狭報”を目的としてオウンドメディアを運用しています。不特定多数に対して広く発信するのではなく、ナイルに興味を持ってくれた人、ナイルの選考を受けてくれている人に適切に情報を伝えるためのツールとして活用しています。
背景としては、多層的なミルフィーユ構造の採用要件ということもあり、自己応募からの選考通過率が低かったという事実があります。オウンドメディアによって知名度を向上して、自己応募を増やしてもボトルネックが解消できないため、認知獲得は考えていませんでした。
以前はSEOの会社というイメージが強く、どんなカルチャーなのか、どんな人が働いているかわからない、どんな業務内容なのか知らないという候補者が多かったです。現在「こんな人が面接担当ですよ」「こんな仕事内容やカルチャーですよ」と面接前にナイルのかだんの記事をポジションに合わせてピックアップした上で送るようにしています。
そうすると、面接にはナイルのことをある程度理解した状態で来ていただけるようになりました。
ー 事前理解が深まると面接での質問もより深堀りできるので、面接や選考自体の質があがっていきますよね。
そのとおりだと思います。
世間の採用広報を見ていて思うのは、認知拡大や記事更新数を目標にしてしまいがちだということです。もちろんフェーズの問題もありますが、まずは認知拡大よりも興味付けによって選考を受けてくれる、よりマッチした人に選考に進んでもらうというCVR向上に向けるべきだと考えています。
自社に興味を持ってきてくれた人をいかに取りこぼさないか。現状のナイルではそこに注力してオウンドメディア運営に取り組んでいます。
オウンドメディア運営のリアルな工数・コスト
ー オウンドメディア運営はどんな体制で行っているんですか?
私1名と社外の外部ライターさんだけで運営しています。まれに社員がスポットで記事を書くこともあります。
リソースが限られているので、私の採用業務の1割くらいをナイルのかだんの更新に充てています。
現在の更新ペースは、社員インタビューが月に2本くらい。組織開発に関する記事やイベントレポートなども公開していますがメインテーマではありません。書くネタがあったので記事化したという感じです。
ー 具体的にはどのくらいの工数がかかっているんですか?
実際の工数を説明しますね。
① 社員のリストアップ 10分 今後注力する採用ポジションなどから、この部署のこの人を取材したいと考えて打診します。 ② 取材対象者との事前打ち合わせ 30分 打ち合わせ用のテンプレートに沿って打ち合わせを行います。 話しているうちに、その人ならではの面白い経歴や、ターゲットに対してどういうポイントを打ち出していくべきか、ということが見えてきます。打ち出すポイントは、実際に打ち合わせする前の想定とは変わることが多いのでこのフローは大事にしています。 打ち合わせが終わったら取材用の記事プロットを作成し、取材対象者に共有します。 ③ 取材 90〜120分 取材はいつも2時間をおさえています。60分から90分で取材を行い、その後に写真撮影します。取材ではライターにインタビューをお願いしています。プロットができているのでそれに沿ってヒアリングしています。 基本的には私も同席しているので会話の流れで「ここもっと深堀りしたほうが面白そうだな」と思ったらそっちに話をもっていきますね。 ④ 初稿UPから公開 30〜60分 2〜3週間後にライターから記事初稿があがってきます。 初稿は私と現場でチェックします。チェックには合計で大体30分から60分くらい時間がかかっています。 チェック完了後、私の方でマークアップを行って公開します。
企画を含めて1記事あたりだいたい3〜4時間くらいかかっているという感じですね。
ー ずばり金銭的なコストはどのくらいかかっているんですか?
私の人件費を除くと、記事1本あたり数万円で設定しています。なので、1ヶ月の予算は公開する記事数によって変わってきますね。
課題は「見て欲しい人に情報を届ける」こと
ー 課題はありますか?
2019年度の採用では、メンバーからリーダークラスの採用はうまくいっているものの、幹部からマネージャーのレイヤーの採用についてはまだまだ課題だらけです。今後はここにテコ入れしようと思っているところです。
テコ入れの中身をより具体的にお話すると「見て欲しい人に情報を届ける」ということを考えています。
これまではコンテンツメイキングについてはこだわってきましたが、情報を届けるデリバリーについては注力してきませんでした。
いろいろな企業の採用オウンドメディアを見ていてもデリバリーの方が弱いと感じることが多いですよね。ナイルでは来年からはデリバリーにも注力して、幹部〜マネージャーのレイヤーの方にもナイルを知ってほしいし、しっかりと情報を届けていきたいと考えています。
ー 先ほどのお話で“狭報”を行っていると伺いましたが、そこから認知獲得へと方向転換していくんですか?
今までやってきたことは継続します。そこに加えてデリバリーという柱を立てていこうという方針です。
まずは「ナイルが採用したい人はどこにいるのか」ということを考えて、その人達がいる場所に情報を届けていきます。
エージェントを通して出会える人たちなのか、ダイレクトリクルーティングで出会える人たちなのか、媒体に登録している人たちなのか、それをしっかりと把握してから、オフラインイベント、Facebook広告、イベントスポンサーなど手法の中で何が効果的なのかを方針を立てて施策を打っていくつもりです。
ー そういった施策において、オウンドメディアはどんな役割を果たすんですか?
必ずしもオウンドメディアを使っていこうとは思っていません。
今お話したデリバリー施策の中で、もしオウンドメディアの記事が使えるんだったら使おう、というくらいに考えていますね。オウンドメディアはあくまで目的達成のための手段で、それにこだわってはいません。採用の目的や課題に応じて手法は選択していきます。
オウンドメディアを運営すること自体が目的になってしまい、目的と手段が入れ替わってしまうことはとてもありがちなケースですよね。
ー 確かによく聞く話ですね。もしこれからオウンドメディアを運営しようという企業がいた場合、どのように運営していくといいと思いますか?
まずは自社に興味を持ってくれた人を対象にした“狭報”を目的に運営していくのが良いと思います。採用のCVRがあがるというメリットに加えて、その場合は一旦デリバリーのことを考えなくて済むからです。
デリバリーを使って認知を取りに行くと金額も工数もかかります。
媒体もnoteなど気軽に運営できるものを選び、なるべくハードルや工数を下げてスタートするのが良いのではないでしょうか。
ー ありがとうございました!
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