<イベントレポート>『スラスラわかるJavaScript』著者とデータから導く、優秀エンジニアの心を掴む採用活動とは?

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厳しさを増す一方のエンジニア採用市場。“非エンジニアである人事担当者が、優秀なエンジニアを獲得するための採用活動”について解説するセミナーを、2024年7月23日に開催しました。

登壇者は、これまで100社を超える採用支援をおこない、100万件のスカウトデータに基づいた効果的な採用活動を実施するICEONEのゼネラルマネージャー加藤万美子さんです。そして、符号堂株式会社代表であり、『スラスラわかるJavaScript』の著者である望月幸太郎さんもお迎えして、エンジニアの視点から見た採用活動についても解説しました。

ミドル〜ハイクラスの優秀なエンジニアを獲得するための採用活動について、成功事例をもとにした採用活動のノウハウや、エンジニアの心をつかむスカウト文の具体例などを明確なデータと共に公開します。

<登壇者紹介>
符号堂株式会社代表・プログラマ/「スラスラわかるJavaScript」著者 望月幸太郎
VPoE として組織づくりや採用活動を経験。その後 Next.js を専門とする受託会社を設立。現在は Next.js による Web アプリケーションの開発や、チームづくり、採用を支援しています。著書「スラスラわかるJavaScript」「コードが動かないので帰れません! 新人プログラマーのためのエラーが怖くなくなる本」/ YouTube「ムーザルちゃんねる」

株式会社ICEONE PRODUCT COMPANY GENERAL MGR 加藤 万美子
大手損害保険会社入社後、2021年ICEONEに入社。事業の立ち上げから、1人目カスタマーサクセスとして3年間で約150社のエンジニア採用を支援。エンジニアへのスカウト延数10万件以上。現在は、ゼネラルマネージャーとして営業組織を統括。

モデレーター
LAPRAS株式会社 採用広報・広報PR責任者 大西 栄樹
大学卒業後、オムロン株式会社入社。BtoBの法人営業を経験後、広報・PRやマーケティングなど国内外のブランドコミュニケーション業務に従事。 2021年8月よりLAPRASにジョインし、PR・広報を中心に、noteやイベント運営など採用広報も担当。大企業、ベンチャーなど様々な規模の企業での採用広報の経験から採用広報のコンサルティングも実施。

エンジニア採用の市況感整理

加藤さん:終身雇用を前提としない考えを持つ新卒社員の傾向と、IT人材の需要が高まっている背景を受けて、転職希望者は年々増加しています。

加藤さん:求人倍率を見ても、企画・営業職やメーカーの業界では3〜4倍であるのに対して、IT通信業界は8倍、技術系の職種では13倍とかなり高くなっています。

加藤さん:こうした背景によって、採用したいポジションが以前よりもハイレイヤーにシフトし、優秀なエンジニアを求める企業が増えた結果、ミドルクラス〜ハイクラスのエンジニア採用がどんどん難しくなっています。

加藤さん:ある企業と調査した結果、エンジニア優秀層においては、5000〜1万ほどのアトラクト活動をした上で、やっと1名採用できるというのが現状の市況感です。

加藤さん:ここでのアトラクト活動とは、行動力を指しています。検索条件を保存して、一人ひとりのレジュメを見て選定をして、スカウト文をつくって、という採用活動の工程を行動力として、それを5000〜1万ほどおこなわないと1名採用できないということです。

成功事例の紹介と、成功ポイントの解説

加藤さん:ミドル〜ハイクラスの採用が難しいといっても、このレイヤーのエンジニアの採用は、企業の成長にとって重要な意味を持ち、採用できるかできないかによって、事業の伸びに大きく関わってきます。

当社が担当した企業様の中で、ミドル〜ハイクラスの採用に成功した事例をもとに、成功のポイントを解説します。

①クラウドベース社

加藤さん:設立7年目のクラウドベース社は、セキュリティプラットフォーム、クラウドベースを開発しているSaaS企業です。市場からかなり評価を受けていらっしゃる会社で、リファラルで採用を進めていましたが、さらに採用人数を引き上げてくタイミングでご相談いただきました。

加藤さん:結論としてクラウドベース社は、約半年で5名の採用を実現しました。実施したことは下記スライドに記載した4点です。

加藤さん:まずはエンジニア目線で自社の強み設計、ターゲットに対するアトラクト設計、対候補者へのレスポンスの速度といった、いわゆるオペレーションの部分が3点。もう一点は、一人ひとりに適切な選考フローの設計です。部署横断でリクルーティング体制を構築し、アトラクトに振り切ったのが、成功したポイントだと考えています。

②フォトクリエイト社

加藤さん:フォトクリエイト社は、しまうまプリントなど、写真×ITの領域でSaaSプロダクトを複数展開している企業です。リリースしてから15年以上経過する既存プロダクトの改修も進めていくタイミングで、「事業推進に向けてGoエンジニアやテックリード層を獲得したいが、どう動いたらいいかわからない」と当社にご相談いただきました。

エンジニアの採用活動自体が4年ぶりで、以前採用を担当していたメンバーも残っておらず、ゼロからエンジニア採用をおこなう必要がありました。

加藤さん:フォトクリエイト社では、結果的に3名の採用を実現しています。クラウドベース社と同じくエンジニア目線で自社の強み設計、ターゲットに対するアトラクト設計に加え、面談の質を向上をしたことが成功したポイントです。

加藤さん:採用活動の内容は、実際に候補者と接点を持つところから、カジュアル面談や面接をおこない、内定承諾に至るまでに5つほどのパネルがあり、非常に多岐にわたります。

それらすべてを採用担当者だけで推進するのではなく、自社のエンジニアと協力体制を築き、エンジニア目線で心をグリップできたのが、2社ともに成功した一番の要因だと考えています。

エンジニアの心をつかむ採用活動とは

加藤さん:下記スライドは、LAPRASさんからご提供いただいたデータです。「やりたいことの記載内容と全く関係がないスカウトメールが送られてくるケースについて、どう思いますか」という質問への回答になっています。

「送らないでほしい」が64%、「特に問題ない」が34%、その他が2%と、そりゃそうでしょうと思う結果ですね。

加藤さん:特にミドル〜ハイクラスのエンジニアさんは、1日にたくさんのスカウトメールを受け取っています。そんな中で、誰にでも当てはまるようなメールがきても返信する気にならない方は結構多いと思うんです。そういった方にスカウトを送ってしまうことで、企業ブランディングを損なうケースを懸念する企業様もいらっしゃいます。そこは私も同意見です。

では、実際にどうスカウトを送っていけば良いのか。下記のスライドは、「そもそも送らないでほしい」と思われてしまうスカウト文の具体例です。

加藤さん:「はじめまして○○株式会社の代表取締役の○○と申します。ご経歴を拝見し、フルスタックのご経験がまさに当社が求めているものと一致しており、ぜひ入っていただきたくご連絡しました」っていう感じの文章ですね。その上で会社概要をお伝えをし、「現在3人目のエンジニアポジションでシステム設計・開発を担うコアメンバーを探している」と求めているポジションを提示しています。

加えて、技術スタックやサービス概要と、必要な情報をたくさん送ってくれている文章ではあると思います。

望月さん:一般論的な印象を受けるかもしれませんね。「なんで自分に声をかけてくれたんだろう」と感じるというか、そこがちょっとわかりづらい文章ではあります。

加藤さん:「フルスタックなご経験」って、具体的にどういうもの?と思ってしまいますよね。さらに「資金調達に成功して、これからビジネスを拡大していくフフェーズ」という、他の会社にも当てはまりそうな訴求文など、この会社の強みが見えにくい文章です。

「システム設計会全般を担っていただけるコアメンバーを探している」と言いつつ、フルスタックの経験を評価していたり、矛盾も感じますね。多岐に渡るポジションを採用している企業では、こういった文章を入れるケースが多いのですが、熱がなかなか伝わりづらい文章になっていると思います。

もうひとつ、具体例を見ていきましょう。「はじめまして株式会社○○にて開発の部長をしております佐々木と申します。○○様のご経歴を拝見し、我々が手がけるDXプロダクト開発のお力添えをいただきたくご連絡しました。ぜひ一度カジュアルに情報交換する機会を作っていただけませんか」といった文章から始まっています。

加藤さん:ご経歴という抽象度が高いワードであったり、配属やお願いしたい役割も不明瞭だったり、特定のご志向へ向けたアプローチではなく全方位型の文面である点が気になります。「本当にレジュメを読んでスカウトしてくれているのかな」と感じる部分があり、返信率が下がりかねないスカウト文だと思われます。

ただし、ここで具体例としてご紹介した文章が、どのケースにおいても悪手になるわけではありません。媒体の特性によっては、こういったスカウト文のほうが効果的なケースもあります。ここでは、あくまでもミドルやハイクラスの、スカウトをたくさん受け取っていらっしゃるエンジニアさんが、返信したいと思う文章になっているかという観点でフィードバックしています。

エンジニアが返信したくなるスカウト文

加藤さん:では、どういうスカウト文なら返信したいと思っていただけるのか、具体例をご紹介します。下記スライドの文章は、私が作成した渾身のスカウト文です。

「株式会社○○のエンジニアリングマネージャーの○○と申します。結論から申しますと、前原様をSREもしくはテックリード候補にお誘いしたくご連絡をいたしました。

前原様のプロフィールから、現在エンジニアリングマネージャーとして、組織・チームの能力向上の取り組みをされていらっしゃる点、SREとしてプロダクトの品質向上をになってらっしゃる点に魅力を感じ、お声がけしました。Wantedlyの記事も拝見いたしました」と、まず冒頭にお願いしたい役割と、それが“あなたじゃなければならない理由”を明記しています。

加藤さん:その上で、会社のミッション、急速な事業拡大のフェーズにあること、8名と少人数の組織で、インフラ専任のメンバーが不在であること、自社の状況を明記し、志向性にも合い、やりたいことを実現できることを伝えています。ここまでを伝えた上で、さらにどういう会社なのかの詳細、SREになぜ専任が必要なのかといった自社の課題を具体的に記載しました。

望月さん:充実していますね。後半の青い部分は具体的な課題で、自分が何を求められているのか、自分に何ができるのかのイメージが湧きやすいと感じました。

加藤さん:課題を率直にお伝えするパターンは、返信率が上がりやすい傾向があります。ただ、企業様から「課題は書かないほうがいいんじゃないか」とご相談いただくことも多いのですが、望月さんはエンジニアさん目線から見てどう思われますか?

望月さん:個人的には嬉しいですね。スカウト文にはいいことばかりを書きがちですが、それ一辺倒になると一般論的になってしまうと思います。課題や現状が率直に書かれているほうが「正直に情報を開示してくれている」と感じて、僕としては好感が持てますね。

課題を書くか迷っている企業は、マイナスイメージを持たれるのではないかと心配しているかと思いますが、いいことばかりアピールされるより、逆に安心します。そういったエンジニアが多いからこそ、実際に返信率が上がっているのではないでしょうか。

エンジニアに響く強みの整理

加藤さん:エンジニアの心をつかむ採用活動をおこなうにあたって、やるべきことは3つあると考えています。響く強みの整理と課題の共有、WILLの実現です。

加藤さん:響く強みの整理は、会社の強みではなく“エンジニアにとって入社する価値を訴求する”ことです。下記スライドの右側に、会社の強みとしてコーポレートサイトなどによく書かれている内容。左側に、エンジニアにとって入社する価値を記載しています。

さまざまな会社の強みがあると思いますが、これをそのまま送っても、ミドル〜ハイクラスのエンジニアには響来にくいケースが多いと感じています。何を強みとするかは、エンジニア目線で考える必要があります。

加藤さん:どんな言語が使えて、どんな開発ができるのか。優秀なエンジニアがいる環境や、会社にとってのエンジニアの立ち位置など、入社後にどんな価値を提供できるのかを明確にしましょう。

「リファクタリングの価値を理解してもらえるのか」も重要です。売り上げを優先すると後回しになりがちですが、プロダクトの中長期的な姿を見据えてリファクタリングを重視していることは、エンジニアにとって入社する価値に繋がります。

企業のビジョンに共感できるかも、もちろん大事な要素ですが、入社することで自身の市場価値がいかに上がるかも、エンジニアにとっては非常に重要なポイントです。

強みを整理する際には、競合目線も大事にしましょう。採用で競合する企業との、比較の視点を入れられると「うちが打ち出すべき強み」の整理がしやすいと思います。

納得感を得られるスカウト文の重要性と設計

加藤さん:下記スライドはLAPRASさんのデータで、エンジニアさんがスカウトで重視することについて回答をいただいた結果です。

加藤さん:回答者がもっとも多い第一群は、年収や働き方などの条件面。第二群が組織面になっています。実際の開発カルチャーや、なぜ自分に声をかけたのか理由の納得感、自分のやりたいことができるかを、非常に大事にしている方が多いです。

先ほどご紹介した渾身のスカウト文でも、組織面に通じる会社の技術課題や組織課題を交えてお話をさせていただきました。組織課題に訴求がある場合とない場合では、反応率に2〜3%程度の差異が生じます。

加藤さん:「ちりも積もれば山となる」という言葉があるように、月間100〜200通、多ければ何千通と送る場合もあるスカウト文において、2〜3%は貴重な伸び率だと思っています。

下記スライドは、組織課題に関するメッセージの一例です。「今後も多くのプロダクトのローンチを目指していく中で、中長期ではそれに合わせた組織拡大にも安定的に踏み込める状態をつくる必要が出てくる」との募集背景を記載した上で、評価している経験を具体的に明記し、「あなたが必要なんです」とお伝えしています。

加藤さん:こういった文言のパターンをいかに多く用意しておくか、それをいかにスカウト文に記載するかが、大事なポイントだと考えています。

ただ、課題を洗い出して言語化し、さらにスカウト文に使えるようにパターン化するまでを、採用担当者ひとりでおこなうのは現実的ではないと思っています。社内のエンジニアさんの協力を得られる体制を構築し、強い武器となる文言のパターンをつくっていくことが重要です。

Q&A

スカウト文面を変える前後での返信率の差、選考の歩留まりの改善について教えてください。

加藤さん:「納得感を得られるスカウト文の重要性と設計」の章でお伝えしたように、返信率は2〜3%ほど上昇しています。先ほどご紹介した渾身のスカウト文では返信率が30%まで上がったので、ポジションによってはまた結果が変わってくると考えています。

文面だけでなく件名でも工夫できますが、件名を記入できない媒体もあるため、各媒体のUI/UXを考慮した上で、工夫するポイントを変えていきましょう。

私は件名を記入できない媒体の場合、冒頭の30文字をカッコ書きにして、【○○ポジションの誘い】のよう文言を入れて、アテンションをひく工夫をしています。結果として、返信率、開封率ともに上昇しました。

大西さん:ファーストビューで目に入ってくる文字の情報は、すごく大事ですよね。

スカウト文は、情報量が多いほうが受け取り手としては好印象ですか?

望月さん:当然のことながら、多ければ良いわけではなく、何が書いてあるかが重要だと思います。情報が詰め込まれていても、あまりにも長い文章だと、読む気になれないかもしれません。充実した内容で、自分に来てほしいという熱量を感じられる文章であれば、ある程度長くても読めるし、反応しやすいと思います。

加藤さん:私も量より質だと考えていて、「なぜあなたにお声がけしたのか」「なぜあなたに来てほしいのか」を、いかに伝えるかが大事だと考えています。文字数としては、LAPRASさんのように個別にスカウトを送る媒体の場合で、1200文字ぐらいがベストとされています。

レジュメが充実している方は、記載されている経験すべてに触れたくなりますが、抽象度を上げて端的にまとめ、1200文字程度におさめたほうが読みやすくて効果的です。

情報が薄い方へのスカウト文は、どのように作成していますか?

加藤さん:企業から求人情報を調べて、「おそらくこういうお仕事をされてらっしゃるんだろう」という前提で作成するなど、限られた情報をもとに推測することが多いです。

在籍していた会社が複数あれば各社のミッションやビジョンを調べて、社会貢献に関心がありそう、toB向けのDXに関わりたいんだろうな、といった形で推測していきます。

ミドル〜ハイクラスのエンジニアさんはそもそも数が少ないので、何度かアプローチする場合が多いため、事前にいくつかのパターン用意しておいて順に当てにいきます。志向が難しければ技術の部分で当てにいくなど、いくつかプロセスをつくって送っていけるといいと思います。

紹介された改善策は、スタートアップなど知名度がない会社や、返信率が低いと言われるSES、受託開発企業にも当てはまりますか?

加藤さん:当てはまります。当社がお取り引きしている企業様の約半分がスタートアップで、そのうちの約3〜4割が受託開発企業です。

ターゲットを明確にして、その方にとって価値となる強みをどう当てにいくかという作業でしかないので、プロセス自体は自社開発でも受託開発でも変わりません。ただし、事業内容によって工夫の余地はたくさんあると思うので、ご紹介した改善策を参考にしていただければ、スカウト文の返信率は上がっていくと思います。

望月さん:エンジニア目線での意見としては、スカウト文の改善とともに、組織の改善をおこなっていくことが重要だと思っています。

素晴らしいスカウト文を送れるようになっても、実態が伴ってなければ入社後にギャップが生じてしまうので。採用活動と並行して組織改革も推進できると、社内のエンジニアも新しく入社するエンジニアも、みんなハッピーになれるんじゃないかと考えています。

まとめ

非エンジニアの人事担当者が優秀なエンジニアを獲得するには、社内のエンジニアの協力が不可欠です。

協力のもと、エンジニアに響く強みを整理し、納得感を得られるスカウト文を作成できれば、ミドル〜ハイクラスのエンジニアを獲得できる可能性は高まります。

本記事で紹介した採用活動のノウハウが、貴社の採用成功を実現するヒントになれば幸いです。

(ライター:成澤綾子)