<イベントレポート>優秀エンジニア獲得のためのスカウト術とは?

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人材獲得競争が激化し続けている、エンジニア採用市場。

パーソルキャリア社が発表した2023年5月度の職種別有効求人倍率(※)において、 エンジニア(IT・通信)の有効求人倍率は9.83倍 と、全職種の2.20倍に比べて非常に高い倍率となっています。 (※引用:https://doda.jp/guide/kyujin_bairitsu/)

日々多くの企業からアプローチを受けている、引く手数多なエンジニアから選ばれる企業になるためには、「スカウトメールを通して何を伝え、どのように自社へ興味を持ってもらうか」の採用設計が重要です。

今回は、2023/9/6に開催されました、イベントレポートをお届けします。実際にエンジニアに届いた200通以上のスカウトメール分析から得られたノウハウ解説に加えて、過去数百社のエンジニア採用支援をおこなってきたLAPRAS社の共同創業者 二井と、WHOM社代表 早瀬さんより、様々な知見や事例をお伝えいただきました。皆さんの採用活動のご参考になると幸いです。

登壇者プロフィール

株式会社WHOM / 代表取締役CEO / 早瀬 恭

JAC Recruitmentにおいて大阪・京都・東京勤務を経て、インド法人の立上げ、シンガポール法人の代表取締役社長、兼アジア域におけるリージョナルダイレクターとして勤務。その後リンクトインジャパンの事業部長として就任し、企業向けの採用ブランディング支援、人材開発支援、エンゲージメント支援に従事。2020年10月に株式会社WHOMを創業し、人事代行・採用支援・人事フリーランス支援を展開。

LAPRAS株式会社 / 共同創業者 / 二井 雄大

京都大学経済学部卒。楽天に入社し、ECコンサルティング職に従事。IoTベンチャーのQrioにて事業開発部マネージャーを経験後、LAPRAS株式会社を共同創業。 CS業務の一環として、これまでに数百社のエンジニア採用活動や体制作りを支援している。

スカウトメールをカスタマイズ度で分類

早瀬さん:「スカウト文はカスタマイズして送る」という認識は一般的になってきましたが、カスタマイズと一言で言っても、そのスタイルはさまざまです。

最初の2行だけ変えればいいのか、一人ひとりにまったく違う文章を送るのか、業界や求める人材によっても刺さる文章は変わります。

そこで、それぞれ違うバックボーンを持つ2名のエンジニアと私が、実際のスカウトメールをもとに、実際にどんな文章がエンジニアに届いていて、どんな文章が刺さっているのかを分析して「梅・竹・松」の3つに分類しました。

梅:一定の情報は提示されているが、あまりパーソナライズされていない。
竹:スカウトを送った理由が明記され、レジュメを読んでいることが伝わる。
松:スカウトの理由が、自分のスキルや経験と紐づいている。レジュメを読み込まれていることが伝わり、納得感を得られる。

早瀬さん:この3つの割合ですが、実際に送信されているスカウトメールは、実は7割以上が梅メールです。ほとんどのメールはカスタマイズされないまま送られているので、少しカスタマイズするだけで他社と差別化できる、魅力的なスカウトメールを作成できます。

松竹梅分析の詳細を解説

梅・竹・松の違いを明確にするために、実際のスカウトメールをもとにした例文を作成して解説します。

梅のスカウトメール

早瀬さん:こちらが、エンジニアに届いているスカウトメールの7割以上を占める梅メールです。

【推定所要時間】
 10〜15分
【良いところ】
 箇条書きで書かれていてポイントがわかりやすい
【今ひとつなところ】
 ・スカウト理由が多くの方に当てはまる
 ・求人に関しての記載なし
 ・なぜスカウトされたのか想起しづらい

早瀬さん:箇条書きを取り入れて、わかりやすく書かれているのは評価できるポイントですが、スカウトの理由が誰にでも当てはまるように感じられます。レジュメをきちんと読んでいたとしても、それが相手に伝わりません。

また、求人に関する詳細の記載がないので、募集しているポジションと自分とのマッチ度が想起しづらい内容になってしまっています。

二井:これでも梅メールなんですね。ちゃんとその人に向けて書いている感じもしますし、非エンジニアの人事がこれ以上深掘りした内容を書くのは難しいとも感じます。

早瀬さん:これは梅ですね。パーソナライズされているのは3行だけで、想定所要時間10分以下だと思いますし、もうちょっと工夫できる内容です。受け取り手からすると、マスメールと変わらない印象だと思います。

竹のスカウトメール

早瀬さん:竹レベルになれば、非常によくできたスカウトメールだと感じます。竹メールを送っている企業は全体の3割を切るので、それだけでも他社と差別化できます。

【推定所要時間】
 20〜30分
【良いところ】
 ・レジュメが読み込まれていて、自分がやってきた仕事をきちんと評価してもらえていると感じる
 ・プロダクトやシステムの状況、課題が整理して書かれていて、自分が貢献できるポイントがイメージしやすい
【今ひとつなところ】
 レジュメと募集ポジションの紐付けが若干薄い。魅力を感じた部分がどう課題を解決するかまで触れてほしい

早瀬さん:CREの立ち上げや、プロジェクトのPM兼エンジニアを担当しているなど、具体的な経歴に触れています。レジュメをしっかり読み込んでいるのが伝わるので、エンジニア側からすると「自分がやってきたことを、きちんと評価してもらえている」と感じられる内容です。

一方でレジュメの内容とポジションの紐付けが薄い点が気になります。とくに興味を持った部分として「CREチームの立ち上げや、ユーザー満足度向上にフォーカスしたプロジェクトでのPM兼エンジニア経験」「エンジニアリング力とユーザー視点」が挙げられていますが、ポジションに対して「この方がどう貢献できると思ってスカウトしたのか」というところに関してはあまり触れられていません。ここはもう少し改善できるポイントです。

既存プロダクトの課題や状況はかなり整理して書かれているので、ある程度経験のあるエンジニアであれば「自分ならこういうところで貢献できるな」「こうやって解決できるな」とイメージはしやすいのですが、スカウトする側が明記しておけると、さらにいい文章になります。

二井:前半は梅にも転びうる印象で、自分である必要性を感じにくいかと思ったのですが、下の青いボックス部分で募集の背景が入ってくると「自分だけに送られている感」が一気に高まりますね。プロダクトの状況や課題の整理がスカウトメールのパーソナライズにも繋がり、興味を持っていただける材料にもなると感じました。

松のスカウトメール

早瀬さん:松になると、グッとボリュームが上がります。

【推定所要時間】
 40〜60分
【良いところ】
 ・レジュメの中の文を引用し、詳しく明記されている
 ・これまでの開発環境や開発体制について理解し、触れられている
 ・キャリアストーリーや過程を理解した上で、本人の指向性を理解する姿勢
 ・再度「なぜ来てほしいのか」理由を提示
 ・現在の課題、解決して欲しいことを伝えて活躍の場を想起させている

早瀬さん:「お声がけさせていただいた理由」の項目ではレジュメの文章を引用し、評価したポイントに具体性を持たせています。

かつ、これまでのキャリアストーリーを加味して、本人がどんな指向性を持って業務に取り組んできたのか、今後どんなキャリアを歩んでいきたいのかについても触れていて、レジュメ全体を読み込まないと書けない内容です。

このメールの送り先はSESからCREチームの立ち上げを経験している方なので、「〇〇様のようにCRE領域やQA領域の知見がある方がバリューを出せる」と、キャリアの変化にポイントを置いている点も評価できます。スカウトに至った背景と現在の課題を繋ぐことで、具体的に活躍の場を想起させているのも素晴らしいです。

さらに松メールには最後に面談担当者の氏名と日程調整のツールが記載されており、採用へのコミットをより感じられます。

早瀬さん:誰と話すのかが事前に明確になっていると安心材料になります。現場の協力体制によるところもありますが、工夫できるポイントです。

ハイレイヤーのテックリードやEM、PMのポジションに関しては、記載のあるなしで受け取り手の印象もかなり大きく変わってきます。

自分の経歴と会社・求人の課題

早瀬さん:カスタマイズにおいて、大事な要素は「自分の経歴」と「会社・求人の課題」のふたつだと考えています。

梅、竹、松に分類した基準を、ふたつの要素で整理したものが下記の図です。

早瀬さん:梅は職務概要のサマリーに目を通していて、言語や環境開発の記載があり、働くうえで大事なスキルセットの情報が記載されています。

ただし、サマリーに目を通していると言ってもサッと目を通した程度なのでカスタマイズできる部分は少なく、ほとんどの文章がテンプレだと伝わってしまいます。

竹はプロジェクトや経歴について具体的に触れ、サマリーにしっかり目を通していることが伝わる内容です。プロダクトの課題、開発組織の課題も明確に示されていますが「入社したあと、自分に何ができるのか」の部分に対する訴求が不足しています。

松は候補者の魅力に感じたポイントと、会社・求人の課題が関連性をもって書かれており、期待する役割と活躍できる場面についても記載されています。「あなたが入ることで、この課題が解決することを期待しています」という意図が伝わるため、候補者が話を聞いてみたくなる内容にカスタマイズできます。

経歴からカスタマイズするポイント

早瀬さん:私もエンジニア出身ではないので、経歴や技術的な部分を深堀りしてカスタマイズするのは難しく、エンジニアチームの協力は必要不可欠です。しかし、スカウトメールを送るたびに毎回相談するのはエンジニアの負担になってしまいます。

エンジニアの知見がない採用担当者が経歴からカスタマイズするポイントは、希望条件、職務要約、職務経歴の3つです。

この中で一般的に軽視されがちなのが希望条件だと思います。職種や業界の希望をはじめ、ワークライフバランスを重視してリモートワークを希望している、自社サービスに携わりたい、女性が活躍している環境など、選択式の項目からわざわざ選んで意思表示しているものに対して、触れずに書くのは機会損失に繋がります。

リモートワークが可能である、役員の◯%が女性であるといった環境面、興味を持ってもらえそうなサービスやプロダクトのラインナップの紹介などは、非エンジニアにもカスタマイズできるポイントです。

【サマリーから読み取れるポイント】
 ・キャリアの指向性
 ・ファーストキャリアから現在に至るまでの開発経験
 ・どの程度の規模感のプロジェクトに携わってきたのか
 ・SES、SIer、自社プロダクトなど、所属会社の立ち位置

早瀬さん:SESから自社プロダクトへ移行する会社は多いので、SESではどんな工程を担当していて、現在はこんな役割を担っているのかを読み取れると、任せたい工程や求めるスキルを具体的に提示できます。

早瀬さん:本気でカスタマイズしていくなら、携わってきたプロダクトごとにどういう役割を担っていたかも理解しておくべきです。担当業務だけでなく、パフォーマンスのチューニングが得意なのか、不具合調査が得意なのかまで、一言一句読み込んだほうがいいでしょう。

場合によってはその方のGitHubも見にいって、エンジニアとして何を重視していて、どんなことに好奇心を持って活動しているのか情報収集します。LAPRAS SCOUTはこの部分を丁寧に確認できるので、スカウトメールのカスタマイズがしやすい設計になっていると思います。

情報収集をする際に気をつけたいのが、経験豊富な業務=これからも携わりたい業務とは限らないということです。今後も同じような領域でスキルを伸ばしていきたいのか、新しい領域にチャレンジしたいと考えているのかによって、スカウト文で提示する業務内容や条件は変わります。

早瀬さん:これらはエンジニアとしてのバックグラウンドがなくても、レジュメを読み込めば得られる情報です。エンジニアを理解するために言語やフレームワークを学ぶのにも限界がありますし、プロジェクトの内容を掘り下げていったほうが本質的なカスタマイズができます。

カスタマイズ<マッチング

早瀬さん:最終的に大事なのは、カスタマイズよりマッチングです。カスタマイズは、情報を候補者に届けるための手法なので、カスタマイズをすれば、必ず適正な候補者とマッチングできるわけではありません。

まずは適正な候補者とマッチングして、その人に対して適切にカスタマイズしたメッセージを届けることが重要です。

早瀬さん:採用の課題は、下記の図のとおり3段階あります。そもそもの採用ポテンシャル、情報の整理・言語化、採用手法です。

先ほどの会社・求人の課題は、真ん中の「情報の整理・言語化」にあたります。自社のポテシャルや課題がきちんと言語化され、整理されているかどうかは意外と抜けがちな論点です。

早瀬さん:結論としてエンジニアにとって魅力的なスカウト文をつくるには、まず会社・求人の課題が明確にできていることが大前提です。この部分は、 エンジニアときちんと話し合って、自社の魅力や課題、入社するエンジニアに何を期待しているのかを整理しておきましょう。

自社の課題やアピールポイントが明確になっていれば、一人ひとりの候補者のレジュメをじっくり読み込んで、強みとなるスキルや魅力的な経歴を時間をかけて抜き出していくより、効率的なカスタマイズメールを作成できます。

そして明確になった課題を定義し、候補者に響きやすい形で言語化できれば、梅メールは簡単に竹メールに化けます。さらに松メールに変化させるには、候補者の強みや魅力と、会社の課題が紐づいていること、納得感のあるスカウト理由を明示することが重要です。

スカウトメールQ&A

文章が長すぎると読まれないと聞きますが、どれくらいが適切なのでしょうか?長いほうがレジュメを読んでいる感を伝えられるのでしょうか。

早瀬さん:返信率を高めたいのか、返信数を増やしたいのかで回答は変わってきます。返信率を上げるにはボリュームのある文章で、冒頭で「あなた宛てに書いたもの」と明確に伝えて、下の文章を読ませる努力をしましょう。返信数を増やすことが目的ならボリュームよりも数を重視して、たくさん送ったほうがいいですね。

対象者の数にもよりますが、エンジニア採用は対象者が少ない状況を考えると、ボリュームのある文章で返信率を上げる努力をしたほうが結果的に効率的だと思います。

二井:LAPRASのデータでは文章の長さによる明確な違いは出ていません。ただ、詳細に読み解いていくとテンプレ比率が高いメールは返信数が下がり、きちんとパーソナライズされた文章の比率が50%を超えているメールは返信率が高くなっています。

文章の長さよりパーソナライズ率が重要ですが、短い文章でエンジニアに刺さる的確な内容を伝えるのは難しいので、ボリュームのある文章で伝えたい情報を余すことなく伝えるほうがいいと考えています。

レジュメがあまり書き込まれていないが会ってみたいエンジニアに対して、どんなスカウトメールを送るべきでしょうか?

早瀬さん:レジュメが質素な場合「あなたの何に期待するか」を書けないので、「弊社の課題はこれです。解決できますか」という投げかけがメインのメールになり、どうしてもテンプレ的な文章になってしまいます。

そもそもレジュメをしっかり書いていない段階で転職への温度が高くないと判断できるので、「とりあえず知っておいてください」と自己紹介的なメールを送っておく程度の気持ちでいいと思います。

二井:一旦パーソナライズは諦めて、自社の魅力を120%伝えるのが大事ですね。

まず、メールを開封していただく段階に課題を感じています。メールの件名ではどんな工夫ができますか?

早瀬さん:名前がわかれば名前を入れたり、会社名や携わったプロジェクトなどがわかれば「〇〇のご経歴に惹かれてメールしました」のように、件名は結構カスタマイズできます。

ただ、メールを開かれていない理由が件名なのか、そもそも媒体を開いていないのかは検証のしようがないので、願いも込めてカスタマイズする感じに近いですね。

二井:媒体を有識者に聞いて選定していくことも必要ですね。

一日10通前後のスカウトメールを作成しているため、1通に時間をかけられません。効率的に松メールを作成するコツはありますか?

早瀬さん:松でもメール文面の6割から7割はテンプレなので、テンプレ部分をいかに魅力的にできるかが重要です。会社の課題、魅力などの情報をエンジニアと話し合って明確にしておけば、1通ごとに大幅なカスタマイズをしなくても松メールを効率的に作成できますし、エンジニアの負担も軽減できます。

プロフィールに記載されている記事を見て魅力的に感じた場合、3年前の記事でも触れていいものですか?

早瀬さん:触れたほうがいいです。自分で作成するプロフィールに記載しているということは自信のある記事なので、何かしらの形で触れたほうが響きやすい文面になると思います。

二井:ネガティブにはならないはずですが、その方の興味やスキルが現在も一緒かどうかはわからないので、情報の取り扱いには気をつけたいですね。3年前のスキル、経験であることを踏まえて、今の経歴や課題に繋げるストーリーをつくれるといいと思います。

まとめ

カスタマイズの前に必要なのは、エンジニアと協力して会社・求人の課題や情報を整理し、明確に定義したうえで魅力が伝わるように言語化したテンプレの作成です。

どんな文章が刺さるかは一人ひとり違うため、スカウトメールは正解のない世界です。しかし、魅力的なテンプレがあれば精度の高いメールを送れます。実際のオペレーションを含めて、パーソナライズする部分とテンプレ部分のバランスを見極めることも、採用担当者の重要な役割です。

テンプレを基盤に、一人ひとりにパーソナライズした情報を提示できれば、梅から竹へ、竹から松へとレベルアップしたスカウトメールを効率よく作成できます。

一方で、カスタマイズがゴールではなく、適切な候補者との「マッチング」がゴールであることを、忘れないようにしましょう。

当イベントで共有した情報を、貴社のエンジニア採用に活かしていただけますと幸いです。

(ライター:成澤綾子)