近年、労働人口が減少し、企業にとっては採用が難しい時代になりつつあります。中でもエンジニアの人材不足は深刻で、優秀なエンジニアを確保することは簡単ではありません。そんな中、注目を集めているのが「ダイレクトリクルーティング」という採用手法です。今回の記事では、ダイレクトリクルーティングが他の採用手法とどのように違うのかを解説し、さらにダイレクトリクルーティングを成功させるためのポイントを紹介していきます。自社の採用がうまくいかずに悩んでいるという方はぜひ参考にしてみてください。
目次
ダイレクトリクルーティングとは
ダイレクトリクルーティングとは、文字通り直接求職者にアプローチする手法のことです。先述の通り、エンジニア転職は売り手市場となっており、優秀な人材には数多くのオファーが来るため、受動的な採用方法では接点を持つことすら難しい状況が続いています。ダイレクトリクルーティングは自らアプローチするという積極的な手法である点が大きな特徴です。
ダイレクトリクルーティングの流れ
ひとえにダイレクトリクルーティングといっても、手法はさまざまありますが、ここではダイレクトリクルーティングを行う際の主な流れを紹介します。
ステップ1:人材データベースに登録する
ダイレクトリクルーティングを行う際は、アプローチする対象となる求職者の情報が必要です。求職者の情報を得るためによく用いられているのが、ダイレクトリクルーティング向けの人材データベースです。まず、人材データベースサービスに登録し、会社が求めている人材をデータベース上で探します。
ステップ2:会社に合った人材にアプローチする
自社で求めている人材を見つけたら、その求職者に対してアプローチします。アプローチの手法はさまざまで、メールの他にもSNSを使ってアプローチするケースもあります。
ステップ3:求職者とカジュアル面談する
求職者から返信をもらったら、カジュアル面談などで人となりを確認します。一般的な採用手法と異なるのが、ここでいきなり選考を進めたりしないケースも多いということです。ダイレクトリクルーティングはアプローチする相手がすぐに転職を希望していない場合もあるため、面談を何度も重ねるなど、時間をかけて採用を行います。
ダイレクトリクルーティングにおいて、カジュアル面談は極めて重要な役割を持っています。エンジニア採用難が続く今の状況で採用の可能性を最大限大きくするためには、現時点で転職を希望していないエンジニアともできるだけ接点を持っておく必要があります。こういった背景から、多くの企業がエンジニア採用をする際にカジュアル面談を実施しています。
ステップ4:選考・採用に進む
求職者の適正を判断し、転職の意志が見られた場合は選考に進んでもらいます。
以上がダイレクトリクルーティングの主な流れですが、その他にもセミナーなどを通じて交流を深めていく進め方や、社員や退職者から推薦してもらういわゆる「リファラル採用」などの手法もあります。
他の採用手法との違い
続いて、ダイレクトリクルーティングの一般的な性質を他の採用手法と比べていきます。
求人媒体 | 人材紹介会社 | ダイレクトリクルーティング | |
採用方法 | 媒体に掲載して応募を待つ | 要望を伝えて紹介してもらう | 自社にあった人材を自分で選びアプローチする |
採用コスト | 比較的安い | 比較的高い | 比較的安い |
採用にかかる時間 | 短期間 | 短期間 | 長期間かかることも |
母集団の人數 | 多い | 比較的少ない | 多い |
自社とのマッチング度 | 比較的低い | 比較的高い | 高い |
求人媒体
求人媒体に自社の求人情報を掲載する形式です。求人媒体を利用する最大の利点は、求職者の母数が多いという点にあります。ただ、集まる人数が多い分自社の求める要件を満たしていない人からの応募も少なからず出てくるため、自社で応募者の選定が必要になります。なお、媒体によって異なりますが、採用にかかる費用は数万~数十万円程度が一般的です。人数を確保したい場合に適している採用手法です。
人材紹介会社
人材会社に自社の求人内容に適した人材を紹介してもらう形式です。自社に合った人材を選んでもらえるのが利点で、自社での工数があまりかからないのも大きなメリットと言えるでしょう。ただ、その分コストがかかる点には注意が必要です。成果報酬型で理論年収の○割という形式が多く、提示した年収によって支払う金額も変わります。また、人材会社によっては、候補者をなかなか紹介してもらえなかったり、求めている条件に合致しない人材を紹介されたりというケースもあります。多少コストがかかっても、自社で工数をかけずに目当ての人材を探したい場合に適している採用手法です。
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングの最大の強みは、自社に合った人材を自社で選べる点です。自社で選ぶことから、カルチャーのミスマッチが起こりづらいという利点があります。また、他媒体に掲載されていない優秀な人材にもアプローチできるほか、スカウトのやり方次第では短期的なマッチングも可能です。ただ、コストは比較的かからないものの、基本的に採用のプロセスをすべて自社で実施することになるため、ある程度の工数が必要になります。時間をかけてでも、自社に合った人材を自社で選びたいという場合に適している採用手法です。
おおよその費用と料金体系
人材データベースを利用してダイレクトリクルーティングを行う場合、料金体系は月額の人材データベース利用料に成功報酬がプラスされる形が一般的です。ITエンジニアをダイレクトリクルーティングで採用する際の成功報酬は多くの場合およそ25~35%程度です。大手転職情報サイト「doda」の調査によれば、2022年時点のエンジニアの平均年収は442万円となっているため、それを踏まえると成功報酬は約120万円という計算になります。ただ、これはあくまで平均的な価格なので、具体的な金額については各種サービスのページで確認するようにしましょう。
なぜダイレクトリクルーティングが注目されているのか?
ここまで、ダイレクトリクルーティングがどのような採用手法かについて紹介してきました。では、なぜ今ダイレクトリクルーティングが注目されているのでしょうか。注目されている背景として上げられるのが、以下の2点です。
有効求人倍率の上昇による採用の難しさ
ここまで、ダイレクトリクルーティングがどのような採用手法かについて紹介してきました。では、なぜ今ダイレクトリクルーティングが注目されているのでしょうか。注目されている背景として上げられるのが、以下の2点です。
有効求人倍率の上昇による採用の難しさ
近年の日本では、少子高齢化に伴って労働人口が減少し、採用の難易度も上がっています。厚生労働省が公表している『一般職業紹介状況』によると、リーマンショック後の2009年8月時点の有効求人倍率は0.42なのに対し、2023年6月30日時点では1.31となっており、ここ10年近くで大きく上昇しているのがわかります。特にITエンジニアの採用市場は競争が激化しています。パーソルキャリア社が公表している転職求人倍率レポート(2023年6月)によれば、2023年5月度の職種別有効求人倍率でエンジニア(IT・通信)の有効求人倍率は9.83倍となっています。同調査における2023年5月度の全職種の有効求人倍率が2.20倍となっていることからも、エンジニアの採用が特に困難を極めているということがわかるでしょう※。
※本データは半年ごとに変更になる可能性があります。ここでは、2023年5月時点のデータを記載しています。
これまではいわゆる「買い手市場」で、企業は待っているだけで優秀な人材が数多く集まっていましたが、「売り手市場」となった現代においては、待っているだけでは人もなかなか集まりません。そこで、企業は自ら声をかけにいく攻めのアプローチが求められているのです。
そんな中、特に注目されているのが、現時点で転職を明確に望んでいるわけではないものの、ぼんやりと今の仕事に不満を抱えている転職潜在層へのアプローチです。ダイレクトリクルーティングなら、求人媒体への採用募集などではアプローチが難しかった転職潜在層に対してもアプローチすることができます。
SNSの普及
ダイレクトリクルーティングが注目される背景には、SNSの普及も関係していると思われます。ダイレクトリクルーティングで重要になるのは、企業がどれだけ求職者と交流を深められるかという点にあります。SNSが普及したことで、企業はSNS上で自社の情報を発信したり、自社に興味を持っている人材にアプローチしたりしやすくなりました。
ダイレクトリクルーティングのメリット・デメリット
続いて、ダイレクトリクルーティングを利用するメリット・デメリットを紹介していきます。
ダイレクトリクルーティングのメリット
ダイレクトリクルーティングのメリットとして挙げられるのは、主に以下の3点です。
人材のミスマッチを減らせる
ダイレクトリクルーティングのメリットの一つとして挙げられるのが、人材のミスマッチを減らせるという点です。どれだけ応募者が多く集まったとしても、自社が求めている人材でなければ意味がありません。人材のミスマッチが起きてしまうと、せっかく採用にコストをかけてもすぐに辞めてしまってまたやり直しというケースが起こり得ます。ダイレクトリクルーティングでは、こちらから人を選んでアプローチをかけるという性質上、求めている人材を獲得しやすくなっています。
広告費の削減
求人媒体などを利用すると、採用の成否に関わらず掲載するだけで広告費がかかってしまいます。ダイレクトリクルーティングのサービスの多くは、人材データベース利用料と成功報酬という料金体系になっており、求人媒体に掲載するよりも安くすませられるケースも少なくありません。
転職潜在層へのアプローチが可能
先述の通り、売り手市場の現代においては転職を希望している求職者を集めるのは難しくなっています。そんな中、転職活動はしていないものの、自分に合う企業があれば転職したいという潜在層にアプローチできれば、人材確保もしやすくなります。今すぐ転職したいわけではないものの、人材データベースに登録しているという人も数多くいます。ダイレクトリクルーティングなら、そういった転職潜在層へのアプローチも可能です。
ダイレクトリクルーティングのデメリット
ダイレクトリクルーティングのデメリットとしては、以下の3点が挙げられます。
採用にかかる時間的コストが比較的大きい
ダイレクトリクルーティングを行う場合、基本的に採用のプロセスのほとんどすべてを自社で実施しなければなりません。人材紹介会社や求人媒体の手を借りないため、自社でどれだけ情報発信や適切な選定ができるのかが重要になってきます。自社に合った人材が欲しいからといって、時間が取れない中で無理にダイレクトリクルーティングをしようとすれば、興味を持ってもらえなかったり人材のミスマッチが起きたりしてしまいます。ダイレクトリクルーティングを行ううえでは、採用に充分な工数を取れる体制づくりが欠かせません。
ノウハウが必要
また、自社で選考から採用まですべて行う都合上、採用に関するノウハウが必要になります。求職者に興味を持ってもらうためのセミナーなどを開催したり、膨大な人材データベースの中から自社に合った人材を選んだりなど、求められるノウハウは多岐にわたります。ただこれは、裏を返せば自社に採用に関するノウハウを蓄積できるということでもあります。長期的な視点を持って採用力を強化していきたい企業にも適した手法と言えるでしょう。
すぐに結果が出ないことも
転職潜在層にアプローチする都合上、求めている人材が見つかったとしても、いきなり面接をして即採用ということにはならないケースも多くあります。今すぐに人材が欲しいという状況でダイレクトリクルーティングをするのは得策とは言えません。ダイレクトリクルーティングは、時間をかけて選定するからこそ、自社にあったベストな人材を選べるという採用手法です。いきなり採用の話をするのではなく、会社を知ってもらうための場を用意し、自社のことを知ってもらいつつ時間をかけて求職者の適正を探っていくことが重要です。
ダイレクトリクルーティングでITエンジニア採用を成功させるためのポイント
最後に、ダイレクトリクルーティングを成功させるために重要な3つのポイントを紹介します。
社内でエンジニアとの協力体制をつくる
ダイレクトリクルーティングは、人事部の採用担当だけが努力をしても成功するものではありません。社内のエンジニアとも協力して、求職者に魅力的な会社だと感じてもらうための会社づくりを行う必要があります。ダイレクトリクルーティングでスカウトする相手は、必ずしも自社に興味を持ってくれているとは限りません。経営層に自社の業務内容や社風、魅力などを求職者に説明してもらったり、実際に働いているエンジニアと面談する機会を設けたりなどの仕組みが必要です。
エンジニアが喜ぶスカウトを書く
ダイレクトリクルーティングにおいては、候補者一人ひとりに合ったアプローチをかけることが重要です。求人媒体で募集をかける際のように、候補者全員に同じメッセージを送り、同じプロセスで採用を進めるのではなく、候補者に応じて柔軟に採用プロセスを変えるようにしましょう。まだ転職を強く希望していない候補者には、無理に採用の話はせず、仕事の内容や社内の雰囲気などを知ってもらうためにカジュアル面談を重ねるといった工夫が求められます。他でもない自分に興味を持ってくれていると候補者に思ってもらえるよう、パーソナライズしたアプローチを心がけましょう。
自社に合ったサービスの選定を
近年では、ダイレクトリクルーティング関連のサービスは数多くあります。登録している人材の年齢層や職種、料金などはサービスによって大きく異なります。自社の求める人材とマッチしないサービスに登録してしまわないよう、サービスごとの特性を理解し、自社にあったものを選ぶようにしましょう。
まとめ
売り手市場になった現代において、求職者に直接アプローチするダイレクトリクルーティングは、自社に合った人材を獲得する効果的な採用手法として多くの企業から注目を集めています。ダイレクトリクルーティングを成功させるためには、これまでの採用手法との違いを理解したうえで、長期的な視点を持って根気よく取り組むことが重要です。ある程度採用に工数がかかるとしても自社に合った人材を自社で選びたいという方は、ダイレクトリクルーティングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
最近では数多くの人材データベースを提供しているサービスがあるので、まずは自社の求めている人材を見つけられるサービスを探すところから始めてみましょう。