すべての社会人にとって、家庭と仕事の両立は永遠の課題です。出産や子育てに伴う家庭環境の変化にうまく対応できないと、家庭が仕事の犠牲になったり、あるいは不本意な転職を余儀なくされてしまう場合もあります。
特に男性社員の場合、まだまだ育休取得が社内で定着していない企業や、業務への影響や育休後の職場復帰で課題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。
そこで今回はLAPRASで育休制度を作った労務担当に「男性育休取得制度設計のポイント」について取材しました。
LAPRAS 労務責任者 竹内巌さん 他社で、労務・総務室長や「新しい世の中を見据えた働き方の導入」などを経験後、2021年5月LAPRASに入社。LAPRASでは、労務と社内のリモートに伴うコミュニケーションの円滑化を担当。一方で、社会保険労務士として事務所を開設しスタートアップ企業の支援なども行っている。
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目次
誰でも取得しやすい育休制度を目指して
LAPRASで育休制度ができた経緯を教えてください
今から4年前(2020年)に会社で初めて育休を取得する方がおり、それをきっかけに制度を作りました。当初は「男性も取得しやすい制度を」と意識していたわけではなく、男女問わず利用しやすい育休制度を、と考えていました。
ただ、社会的には男性の育児参加を推進する動きは強まっており、その2年後(2022年)には育児・介護休業法が改正され、男性が育休をしやすくなるような制度が創設されます。社内・社外の両方から「誰でも取得しやすい育休制度」を求める動きがあり、それに合わせる形で制度ができた、と言えるかもしれません。
(参考リンク)育児・介護休業法(2022年改正)のポイントhttps://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/ikuji/point.html
制度ができてから今日まで内容に変遷はありましたか?
法律に基づいて作っているものなので、大枠では変わりませんが「その外側にある部分」については変化があります。具体的には「取得時・復帰後のフォロー体制」が変わりました。
それ以前に制度を利用して育休を取得した人から復帰後に感想を聞いた際、「お休みの間の情報が入ってこないので疎外感・不安感があった」、「復帰してもついていけないのではないか」といった不安の声がありました。そこで、こうした不安を解消できるよう取得時・復帰時のオンボーディング内容をより充実させていきました。
直近1年間での男性取得率は100%
現在、社内での男性の育休取得状況はいかがでしょうか?
過去1年間(2023/03~2024/05)では、男性の育休取得率は100%です。つまり、その期間中に子どもが生まれた社員は全員が育休を取得しています。期間はさまざまで、最長1年取得する方もいれば、3ヶ月~半年、半月~1ヶ月という方もいます。
男性の育休取得が定着しているのはなにか理由があるのでしょうか?
社内で男性社員が最初に育休を取得したときの出来事が、制度が浸透するきっかけになりました。そのときは私が皆に声をかけて、取得した社員を「育休に送り出す会」を企画しました。育休前、最後の出社日に社員が集まって「育児頑張ってね」と激励したのです。
最初に言い出したのは私ですが、他の社員たちも暖かい雰囲気づくりに積極的に協力してくれました。あの出来事で「育休が取りやすい雰囲気」が社内に広がっていったのではないかと思っています。
「育休を取得するのは当たり前」というカルチャーの醸成
今、社員から自社の育休制度はどのように受け止められていますか?
「育休は取得するのが当たり前」という状況で、特別なことだとは思われていません。子どもが生まれたことがわかると「いつ取るの?」と周りが聞くほどです。
制度を利用する人と、利用しない人で受け止め方に違いはありますか?
単身者や、すでに子どもが手のかからない年齢になっている方も、全員が当たり前の制度として受け入れています。取得期間が短くても業務の引き継ぎなどはありますが、皆暖かく対応してくれています。
制度ができたことで社内に何らかの変化はありましたか?
制度ができたことをきっかけにした変化はさほどありません。これは弊社が元々フルリモートであることが影響しているのではないかと思います。リモートワークでは、社員全員が非同期で仕事をするのが当たり前なので、家庭の用事で仕事を抜けたり、休んだりすることに寛容な社風がありました。
さらにWeb会議などしているとお子さんがカメラに映ったり、声が聞こえたりすることも多々あります。そうしたことがきっかけで「仕事と家庭の両立」や「子育て・育児」を意識しやすい環境が整っていたのではないかと思います。
強いて言えば、男性の育児への意識も社会の変化に合わせて変わってきているのかもしれません。たとえば弊社には福利厚生の一環としてベビーシッターの費用を助成する制度があります。
この制度を利用するのは元々は女性が多いイメージでしたが、最近は男性が利用するケースも増えてきています。
▼制度の詳細はこちら
男性育休取得制度を設計する際のポイント
育休制度を作るにあたって、取り入れたほうが良い仕組みはありますか?
LAPRASで取り入れて有効だった仕組みとしては「育児休業に専念できるオンボーディング」が挙げられます。育休取得時には、取得した社員が育休中不安な気持ちを抱えて悩まないよう事前にMTGを行います。育休取得中も社内の変化から置いていかれ、浦島太郎になってしまわないよう、マネージャーが月1回のMTGを実施します。私の前職で、育休取得から育児ノイローゼになってしまった方がいて、そういう人を出さないためにこうした仕組みを取り入れました。
さらに取得期間が半年以上となる人は、育児休業中に月イチの1on1を行っています。完了後は、卒業論文という形で「育休を取得しての感想」「復職前と復職後の会社が変わった点」などをレポートとして提出してもらい、他の社員から見てもらいます。そうすることで、次に育休を取得する人も、育休中やその後の職場復帰などの流れをイメージした上で、不安なく育休を取得してもらいやすくなります。
男性でも取得しやすい育休制度にするにはどのような工夫が必要でしょうか
男性の場合、「育休を取得するとしても短時間にとどめたい」、「取得中も何らかの形で仕事に関わりたい」といった意向を持つ方が一定数います。「長期間、完全に仕事を休む」という選択を選びづらい方がいることを前提として制度設計するほうがいいでしょう。
まず1ヶ月以内など短期間の取得も可能にするほうが利用しやすくなります。これに加えてLAPRASの場合、上限こそあるものの「育児休業中にも就労できる仕組み」があります。「育休中、まるまる休むことに抵抗がある人」へのケアとして、このような仕組みを用意しています。
制度設計の際に参考にした事例や公的ガイドラインはありますか?
法律に準じて制度を作らなければならない部分は以下のような情報を参考にしました。
(参考リンク)竹内さんが育休制度立ち上げ時に参考にした情報源
https://ikumen-project.mhlw.go.jp/company/system/
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/ikuji/connection.html
育休を「取得して当たり前」の会社にするために
育休取得を社内に浸透させていくために最も重要なことはなんでしょうか
男性育休の取得率を上げるためには「育休は取って当たり前」という社内のカルチャーを醸成していくことが大事です。会社による金銭面でのサポートや、労務担当が取得を勧めるなどの取り組みだけでは十分に定着させるのは難しいでしょう。
育休が取りやすいカルチャーを作るにはどんな方法がありますか?
たとえば「管理職の方が率先して育休を取る」などの取り組みをすれば、部下の方も取りやすくなるのではないでしょうか。ただし「1ヶ月間、形だけ取った」ような形だと十分な効果は期待できません。社内に手本を示すのであれば最低でも3ヶ月は取ったほうが良いでしょう。
その際、取得する方が「取りづらい」と感じるようであれば「そもそも休みが取りやすい仕組みがあるか?」を見直すことをおすすめします。「権限委譲のしやすいか」「仕事がすぐ分担できるか」といった部分ですね。
また「プライベートな情報を発信しやすい雰囲気」が社内にあると、それに関連して出産や子育てに関する情報も自然と共有されやすくなります。こうした雰囲気づくりの方法については「社員のコンディションケア」についての記事でご紹介しています。
▼プライベートな情報が発信しやすい雰囲気づくりについて読む▼
「育児が後ろめたく感じないような工夫」がされていると育休が取りやすいカルチャーも自然と生まれていきます。
育休制度づくりに取り組む方へのメッセージをお願いします
「育休取得率◯%以上」「年間育休取得者◯人以上」というように、数値的な目標を掲げるのも良いですが、それよりもまず本質的な部分に立ち返って考えるのをおすすめします。
育休制度の本質的な目的は、社員が家庭生活を円満におくれるようにすることです。社員の家庭生活が充実すれば、精神的にも充実し、それは仕事のパフォーマンスとなって返ってくるはずです。目先の数値だけにとらわれず社員の幸せを考えるようにすれば、巡り巡って自社にプラスの影響が返ってきます。単に「制度を作っている」という発想ではなく「会社のカルチャーを作っている」というふうな捉え方をするのが良いと思います。
ー本日はありがとうございました!
LAPRASで育休取得を取得した男性社員の声
ソフトウェアエンジニア/取得期間:1年
1年間という長期間の育休を取得できたおかげで、子供の成長をじっくり見守ることができ、かけがえのない時間を過ごせました。また、自営業で産休・育休のない妻の早期復職をサポートできたり、今年小学3年生でまもなく親離れの長男とも思いっきり遊び、思い出を作れたりと、家族全体にとっても非常に有意義な時間でした。育休を取得して本当に良かったと思います。
私はLAPRASで初めて男性育休で、取得前は「本当に取得してもいいのかな?」と不安だったのですが、チームメンバーや労務に相談した際に快く後押ししてくれて、安心して育休に入ることができました。育休中もSlackのtimesや、2ヶ月に1度の1on1で定期的にコミュニケーションを取っていたため、復帰時もスムーズにチームに戻ることができました。また、復職後のオンボーディングも手厚く、キャッチアップが非常に捗り助かりました。
ソフトウェアエンジニア/取得期間:1週間
第一子の誕生直後は全てが未経験でうまくいかないことだらけなので、その最初の期間にがっつり子育てと向き合って世話のしかたを学び、家庭を回していく仕組みを作ることに使えたのはとても大きかったです。
母親がいなくても父親だけで一通りの世話ができる、という状態になっておくと母親の精神的負担がだいぶ減るので、短い期間でも取ってよかったと思いました。
1週間程度であれば調整らしい調整もなくあっさりと休みが取れました。先行して他の社員の取得事例があったこともあり、精神的にも取りづらさは全く感じませんでした。次があったならば、第一子の世話もあるので月単位でとろうと思います。
ソフトウェアエンジニア/取得期間:3ヶ月超
今回は二人目の子どもの育休でした。夫婦の役割分担として妻は授乳と安静を第一にとることで、私は幼稚園入園前の長男(3歳)のお世話と家事を担当しました。
前職で一人目出産のときも育休を取得して良かったと思いましたが、二人目のときは育休の取得は必須だったなと感じました。もし育休を取得しなかったら、妻の安静と子どもの世話、仕事のことまで中途半端で大変だったんだろうなと思います。育児休業給付金の支給まで時間がかかることはヒヤヒヤしたこともありましたが、家族との濃い時間を過ごせて本当に良かったです。
柔軟な組織で、3ヶ月の短いといえば短い期間ではありますが、復帰してから自分の仕事ってあるのかな?のような不安は全くありませんでした。また、戻ってきたその日からどのようにキャッチアップしていくかの計画とフォローを用意してもらいましたので、早く育休前のパフォーマンスを取り戻すことができて助かりました。
コーポレート職/取得期間:10日間
LAPRASの制度としては短い期間でも取得しやすく気兼ねなく取得ができました。育休取ることで妻の負担を少しでも減らすことができたので良かったと思います。もう少し長い期間をしっかり取る方がより良かったかもしれないなとも思いました。家庭それぞれの状況が違うので、その状況に合わせて育休はしっかり取ることが望ましいなと思いました!
ひとり部署として誰かに完全に長期間誰かに引き継ぐことが難しい中でLAPRASの育休は短期間でも取りやすい制度でした。また復帰してからも育児と仕事の両立ができるような環境が整っていることもとてもポジティブでした。メンバーの理解も高いので育休を取ることに後ろめたさがほとんどないこともとてもありがたいなと思います。
ビジネス職/取得期間:1ヶ月
短い期間でしたが、取得してよかったなと思いました。今回の私の育休は産後すぐではなく、妻が里帰り育児をしていたため時期が経ってのものでした。いざ子どもが帰ってきたときに自分が育児をちゃんとできるか不安であったので、取得したことでその不安を払しょくできてよかったです。仕事復帰後もその状態から仕事に臨めているので、逆に生産性が上がった気がしております。また、育休という形で家庭と向き合う時間をしっかりとれたことで今までとは違うモチベーションが湧いたのも良かった点です。
まだまだ男性の育休はとりにくい雰囲気が世の中にあるのは否めないと思います。私は育児で苦労している男性の話を耳にしたこともあったので正直不安でした。そんな中で、LAPRASは育休を取得しやすい雰囲気と文化を作ってもらったので、打ち明けられる・相談できるという点がまずありがたかったです。社内の他のメンバーに育休取得を発表した際も「えっ」みたいな反応がなく業務の引継ぎもスムーズに進められました。これもLAPRASのカルチャーづくりあってのことだと思います。
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