競争が激化し続けている、エンジニアの採用市場。
パーソルキャリア社が発表した2023年1月度の最新職種別有効求人倍率(※)では、エンジニア(IT・通信)の有効求人倍率は11.17倍と、全職種の2.34倍に比べて非常に高い倍率になっています。(引用:https://doda.jp/guide/kyujin_bairitsu/ )
つまりエンジニアは、採用市場において「企業に選ばれる側」ではなく「企業を選ぶ側」なのです。エンジニアから選ばれる企業になるためには、エンジニアに刺さる採用戦略を設計する必要があります。
今回のイベントでは採用戦略の手段のひとつである「技術広報」をテーマに、株式会社ユーザベースの技術広報担当・西和田さまをお招きし、技術広報に対する考え方や、実際に取り組んできた戦略内容についてお話しいただきました。
なお、本イベントのアーカイブ動画を閲覧したい方は、こちらからお申し込みください。
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目次
- 1 登壇者紹介
- 2 ユーザベースの技術広報体制、ミッションを解説
- 3 技術広報のポイントを理解する
- 4 技術広報≠採用広報。本質はカルチャー醸成
- 5 各プロジェクトにおけるKPIの考え方
- 6 技術広報でインナーブランディングも強化する
- 7 技術広報Q&A
- 7.1 「この技術広報でいこう」と決めた際のやり取りの内容や、経緯について教えてください。
- 7.2 技術広報は、最初に決めたものから変えて良いものですか?
- 7.3 技術広報が設定している目的は、エンジニアにも浸透していますか?また、発信のモチベーションにいい影響を与えていますか?
- 7.4 非エンジニアが技術広報をしていて、わからないエンジニア用語などが出てきた時はどうしていますか?
- 7.5 エンジニアがイベントを開催するハードルを下げるために、工夫したことはありますか?
- 7.6 エンジニアが広報に関わる時間は月にどのくらいでしょうか?記事の企画もエンジニアに任せていますか?
- 7.7 コンテンツを生み出す仕掛け作りはどうしていますか?
- 8 まとめ
登壇者紹介
株式会社ユーザベース / 技術広報担当 / 西和田 亜由美
大学卒業後、新卒で航空会社に客室乗務員として入社。その後ITベンチャー企業2社を経て、2022年4月に株式会社ユーザベースに入社。現在は、NewsPicksを含めたユーザベースグループのDevRel・社内のエンジニアリングスキルを向上させる「Play Engineeringプロジェクト」のプロジェクトマネージャーを担当。
LAPRAS株式会社 / 共同創業者 / 二井 雄大
京都大学経済学部卒。楽天に入社し、ECコンサルティング職に従事。IoTベンチャーのQrioにて事業開発部マネージャーを経験後、LAPRAS株式会社を共同創業。 CS業務の一環として、これまでに数百社のエンジニア採用活動や体制作りを支援している。
ユーザベースの技術広報体制、ミッションを解説
西和田さん:採用広報では、企業理念や仕事内容などの情報や、社内カルチャーがわかる社員インタビュー記事などの幅広いコンテンツを発信します。
一方の技術広報は、自社のシステムや技術などに特化した情報を発信するため、社外のエンジニアの興味・関心をひく手段として有効です。 技術広報の体制は企業によってさまざまですが、大きくわけると下図の3パターンに分けられると思います。
弊社は3つ目です。私を含む非エンジニアの2名が技術広報を専任で担当し、デザイナーなど他の職務と兼任で携わっているメンバーや業務委託の方もいます。
技術広報のプロジェクトを推進していくのは、非エンジニアである私たちですが、あくまでも発信するのはエンジニアさんなので、NewsPicksとSaaSのエンジニア組織それぞれとの連携体制を整えて進めています。
弊社の技術広報チームにおける主なミッション「テクノロジー・カンパニーの実現」のために必要な取り組みが、「プロダクトチームの発信力の底上げと強化」と「全てのメンバーがエンジニアリングを楽しめる組織づくり」です。一般的に想起されるものは前者かと思いますが、ユーザベースの場合、ビジネスポジションのメンバーへ向けた制度作りなども技術広報チームが担当しているため、大小含めプロジェクトはとても多いです。
「プロダクトチームの発信力の底上げと強化」と「全てのメンバーがエンジニアリングを楽しめる組織づくり」はどちらも非常に重要なのですが、今回は「技術広報」でイメージされる方が多い「プロダクトチームの発信力の底上げと強化」についてお話しします。
技術広報のポイントを理解する
西和田さん:技術広報を推進しようと考えたとき、まず最初にやるべきことは「目的や対象、訴求の整理」です。
よくあるNG事例は、下図で言うステップ③の「プロジェクトの実行」からいきなり入ってしまうことで、これは危険です。テックブログのプラットフォーム選定やイベントの企画内容などは、あくまでも①と②を整理してから策定した方が良いと思います。
ステップ①では、まず技術広報の目的やターゲットを整理します。それを踏まえて他社の取り組みも参考にし、自社の強みを整理してターゲットへの訴求ポイントを言語化します。
ステップ②では戦略やOKR(達成目標と主要な成果)、KPIの策定をおこなって全体のロードマップを作成します。弊社は現在1100人以上の組織規模なので、ミーティング体制の整理と設定も、プロジェクトを推進する上では重要なポイントになります。
ここからは、とくに重要なステップ①について、細かく説明します。
技術広報≠採用広報。本質はカルチャー醸成
西和田さん:「技術広報=採用広報」という認識は間違いではないですが、目的とするアウトカムが採用だけになると、採用したいポジションが大前提としてあり、そこに合わせたイベント内容など、プロジェクトの企画が偏ってしまいます。
そのため、本来の技術広報は「こういう内容を発信したい」「対象はニッチになるかもしれないけれど、こんなイベントがやりたい」という、エンジニアが考えたものを尊重するカルチャーの醸成がとても大事で、ボトムアップでエンジニア組織の発展を促進することが技術広報の本質であり、主目的だと私は考えています。
そのため、インナーブランディングと採用成果はどちらの観点もとても大切です。
続いて図の②にあるように、広報の対象を誰にするのかを整理します。エンジニアと議論をおこない、どんなエンジニアに興味を持ってほしいか、対象の人物像を一緒に考えていきます。この際、正確な対象を策定するということよりも、まずはエンジニアと議論すること自体に意義があると思っています。
③では、まず自社に対してどういうイメージを持ってほしいのかを言語化します。こうであってほしい理想のイメージと、現実的なイメージを埋めていくことがブランディングだと考えており、自社の独自性や提供できるベネフィットを改めて整理していく工程です。
ここで他社との差別化ができる、独自性のあるベネフィットを策定できるとベストですが、「これだ!」と1度ですぐ決まるものではないので、社内で議論を続けていくことに意味があると考えています。
最後に、①、②、③を踏まえて④もジャーニーマップを作成します。資料があまり美しくなかったのでモザイクをかけてしまったのですが(笑)、対象がどんな経路で流入して、どういうコンテンツを踏んで態度変容していくのかをまとめたものです。これは、プロジェクトを推進する上での頭の整理をするのに活用しています。
①〜④で前提を整理してから、技術広報の訴求と方針を整理します。
二井:対象やベネフィットを決めること以上に、社内で議論することが大事というお話がありましたが、議論に参加すべき人、ポジションはありますか?
西和田さん:CTO、技術広報を一緒に推進していく担当のエンジニアさん、エンジニア採用の状況を把握しているメンバーは必須だと思います。弊社の場合、代表が入ることもありますし、入れないときにも事前に話し合って代表と私の認識を揃えて議論に参加することもあります。
二井:技術広報を立ち上げるには、結構大掛かりな準備や仕組みづくりが必要な印象を受けました。エンジニア組織の規模感がどれくらいの時期から技術広報に取り組むと、上手くいきやすいと思われますか?
西和田さん:私は組織のフェーズや大きさに関わらず、いわゆる「技術広報というものを意識する」ということに関しては、早ければ早いほうがいいと思っています。「他社がこういう良い取り組みをしているな」「このブログが、とても学びになった」と社内で共有しあったり、実際に何かプロジェクトを実行するところまでいかなくても、「技術広報を意識できるカルチャー」は中長期的に醸成されるものなので、早い段階での意識がとても大事だと思います。
各プロジェクトにおけるKPIの考え方
西和田さん:技術広報の成果は中長期的なスパンで判断するもので、数値で表せる定量ではなく、定性的な変化を重視してKPIを策定しています。
このとき、③のROI(費用対効果)を意識しすぎると、技術広報の本質的な部分が失われてしまうので注意が必要です。
④の指標を見る人、見ない人の整理は、「技術広報専任」がいる弊社の今の体制だからこそできることではあるのですが、発信の主体となる「エンジニアがみる指標」と、技術広報チームで追っていく「細かいPV数などの指標」を分けています。
各プロジェクトにおいて、エンジニアと技術広報チームが一緒に把握する指標と、技術広報チームだけが把握する指標は下図のとおりです。
テックブログを例に挙げると、エンジニアが把握する指標には月単位のブログ執筆数といった行動指標をメインとしています。一方、技術広報チームは、より細かい月間のPV数や人気記事、期間別の変化などを定期的に確認して把握します。
PV数を目標にしたりブックマークの数を決めて目指すのは、発信者のモチベーションにも影響しますし、執筆ハードルも上がり持続性がないので、エンジニアが把握するのはまずは行動指標のみで良いと思っています。
対して技術広報チームが数字を追うのは、市場のニーズを知ったり、予算をとるためにもプロジェクトの意義を説明する責任があるため、数値のファクトを細かくとるようにしています。
二井:予算をとれるレポートを作成するための、工夫やコツはありますか?
西和田さん:月毎のPV数や、テック系のサイトがどれくらい見られているか等は、グラフにしてまとめています。また、代表に報告するときには短期的な成果を示すのではなく、「中長期スパンでの期間別の変化」を詳細に伝えるように心がけています。
「数ヶ月前までは自社のテックイベントは開催していなかったけれど、今は毎月企画もエンジニア主体で開催できている。そのブログを見て、取材依頼がこれだけ増えている」というのも大きな成果ですし、「エンジニアのカルチャーが、こんな風に醸成されてきた」「内定者の方がポッドキャストをすごく聞いて入社の参考にしてくれていた。」などの定性的な具体のエピソードを伝えることも有効かと思います。
要は、聞き手が「技術広報がどのように事業貢献しているのか?」イメージできることが大事だと考えています。
二井:エンジニアは基本的に行動指標だけを把握しているとのことですが、個人のSNS発信について投稿数などの行動指標は設けていますか?
西和田さん:設けていません。もちろん発信数は多い方がいいとは思っていますが、登壇するのは好きでもSNSは動かしていないという方もいらっしゃいますし、現状、行動の強制はしていません。
技術広報でインナーブランディングも強化する
二井:ユーザベースさんが、インナーブランディングを重視・推進する目的を教えてください。
西和田さん:まずは、発信を継続化するためです。1記事のブログがバズったり、1回のイベントで300人集客できたりしても、効果は一時的だと考えています。
継続的に発信ができれば、ターゲットにリーチできる可能性も高まり、多くの方に見ていただく機会も増えるので、エンジニアが自ら発信したいと思えるピラミッドの土台作り=インナーブランディングが重要なのです。
ここからは、インナーブランディングを推進・強化するためにおこなっている、技術広報チームの取り組みをご紹介します。
アウトプット体験を向上させる
西和田さん:技術広報で大事なのは、アウトプット体験(Output experience)の向上だと思っています。「ブログを書いてよかった」「イベントに登壇してよかった」など、エンジニア自身が一歩踏み出して発信したことに対して、ポジティブな感情を抱いてほしいと考えて取り組んでいます。
具体的な取り組みとしては、技術広報チームだけでなく社内全体からのリアクションを大きくするために、テックブランディング担当の方と盛り上がりそうなブログネタを検討したり、ブログや登壇情報などをSlackでアナウンスしたりしています。
ポジティブループで「NICE TRY!」を生み出す
ブログが例えバズらなくても、イベントの集客人数に達しなくても、社内から「この部分はよかった」「こういう観点では成功した」といったポジティブなリアクションがある「NICE TRY!」に観点を向けるカルチャーの醸成は、技術広報の大事な役割だと思っています。
その結果、またチャレンジしたいと思えたり、それを見た他のメンバーもチャレンジしたいと思うようになったりと、ポジティブループが誕生します。
二井:ポジティブループのスタートはエンジニアの「発信したい」という気持ちだと思うのですが、モチベーション向上のための工夫や施策はあるのでしょうか?
西和田さん:書いていただいたブログや登壇したイベントについてはSlackチャンネルや公式のSNSアカウントで大々的に発信しており、公式以外のブログでも希望があれば発信してもらっています。
あとは、イベントの場合は、思うように集客できなかったときでも、目標に達しなかったことについて責めるようなことはしません。どういう集客の仕方がよかったのか、今後同じような状況の際にリカバリーできる手段は?と「問い」を投げかけて一緒に考えるなど、温度のあるコミュニケーションを心がけています。
アウトプットの一番の味方になる
西和田さん:技術広報チームは、人事・採用系と同じようにPM的な業務が多く、それに加えてメンバーのいいところや組織のいいところを見つけて、その訴求を最大化させる役割を担っていると思います。
例えると、タレントの魅力を理解して、人気がでるようにサポートするマネージャーのような存在だと思っています。アウトプットの一番の味方になって、発信に対して前向きになれる環境づくりへの取り組みが大事だと思います。
二井:適切なサポートにはコミュニケーションが不可欠だと思うのですが、エンジニアとのコミュニケーションにおいてのコツや、心がけていることはありますか?
西和田さん:たくさん話す機会をつくるようにしています。他社の事例を見て、自分なりの意見を伝えてみるのも大切です。かしこまったミーティングの場をセットするのももちろんいいですが、もっと気軽に「雑談させてください!」や「ランチさせてください!」とお声がけさせてもらい、壁打ちさせてもらう場合もあります。
技術広報Q&A
イベント時に、西和田さんに寄せられた質問に答えていただきました。
「この技術広報でいこう」と決めた際のやり取りの内容や、経緯について教えてください。
入社後、それぞれの組織内の役割や立ち位置を把握して関係者を召集しました。そのあとは採用の要件定義を決めるところに似ていると思います。
最初はとにかく意見を発散してもらうことに注力しました。ミーティング中に2〜3分時間をとって、自社の技術広報についてどう思うか、採用面ではどういうエンジニアが必要かなどをドキュメントで共有してもらい、書かれた内容を確認しながら少しずつ収束させていくというフローです。
こういった議論はなかなか1度では完結しないため、それを繰り返して、ブラッシュアップしていった形です。
技術広報は、最初に決めたものから変えて良いものですか?
変えていいものだと考えています。一定期間は同じところを目指してみて、PDCAを回しながら都度適切なものにアップデートして変えていく姿勢は必要だと思います。
技術広報が設定している目的は、エンジニアにも浸透していますか?また、発信のモチベーションにいい影響を与えていますか?
全体に普及できているかといえば、まだ課題があると感じています。ただ、「インナーブランディングを強化していくのが本質」という考えは、少なくともプロジェクト推進チームでは一致しているため進めやすいです。
モチベーションの面では、技術広報の重要性を理解して積極的に発信してくださる方もいますし、気持ちはあってもアウトプットが苦手な方ももちろんいます。まずは、得意な方、コミットしてくださる方からポジティブループを広げていけたら良いのではと考えています。
非エンジニアが技術広報をしていて、わからないエンジニア用語などが出てきた時はどうしていますか?
社内のエンジニアさんに聞いています。これまで、エンジニア採用やイベントのお手伝いなどもしてきたので用語や知識について多少の免疫はありますが、まだまだ知らないことも多く、技術も日々進化していくので学び続けないといけませんし、あまり躊躇せずに素直に聞いています。
エンジニアがイベントを開催するハードルを下げるために、工夫したことはありますか?
企画がしやすいように、アジェンダやターゲット、開催日や集客期日などを「何を決めれば良いのか」フレームワークを明確にするフォーマットを作成しました。弊社のエンジニアさんは元々協力的ということもあり、工夫したのはそれくらいです。
エンジニアが広報に関わる時間は月にどのくらいでしょうか?記事の企画もエンジニアに任せていますか?
具体的な時間はすぐには出せないのですが、情報発信も業務内でおこなっています。テックブログの企画に関しては、エンジニアさんにお任せしています。
コンテンツを生み出す仕掛け作りはどうしていますか?
テックブランディング担当のエンジニアさんと技術広報チームが、常にアンテナを張って企画を持ち寄っています。
Slackの投稿でブログネタになりそうなものを見つけたら「レッツ テックブログ」というスタンプを押して、発信を後押しする取り組みもあります。
まとめ
技術広報がうまく機能すれば、インナーブランディングと採用において絶大な効果を発揮し、カルチャー・スキルともにマッチしたエンジニアに選んでもらえる可能性が高まります。
エンジニアの採用戦略を勝ち抜き、有能な人材に多角的にアプローチしていくために、技術広報チームの立ち上げ・底上げは急務と言えるでしょう。
当イベントで共有した情報を、貴社のエンジニア組織の発展と技術広報戦略に役立てていただけますと幸いです。
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(ライター:成澤綾子)
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