DX推進に投資する企業の増加やICT投資の活発化など、社会におけるITの需要は高まる一方で、エンジニア人材の人手不足は進み、獲得競争はますます激しくなっています。認知度向上や他社との差別化のために、採用広報や技術広報に注力する企業も増えてきました。
このような状況下で、候補者から選ばれる企業になるためにどのような情報を届けていけばよいのか、お悩みの企業様も多いのではないでしょうか。
そこで本セミナーでは、エンジニア優秀層の心を掴む採用プラットフォーム「LAPRAS SCOUT」と、「働く人」から企業の魅力を伝える採用ブランディングサービス「talentbook」より、エンジニア人材の獲得に向けた採用広報のポイントを大手企業とスタートアップの違いにフォーカスし、解説しました。
目次
- 1 登壇者プロフィール
- 2 LAPRASが考える採用広報の「時間軸」
- 3 PR Tableが提案する採用コンテンツの磨き方
- 4 知名度は、高さ<内容。採用戦略における自社ブランディング
- 5 大手とスタートアップで、採用リソースの使い方を変える
- 6 採用広報Q&A
- 6.1 限られた予算の中で、認知度を上げるために最低限やるべき取り組みについて教えてください。
- 6.2 採用広報は基本的に中長期の施策になることが多いですが、各施策の効果を測定する、おすすめの検証方法はありますか?
- 6.3 弊社では採用は人事、広報は経営企画、エンジニア採用の各種ハンドリングはエンジニアが担当しています。この場合、誰が採用広報の舵取りをするのがベストでしょうか?
- 6.4 広報チェック等が入り、コンテンツの公開まで時間がかかるケースが多いです。スムーズに進めるためには、どのような取り組みが必要でしょうか?
- 6.5 採用広報を進めていく上でのモチベーションの保ち方、効果実感の方法にはどのようなものがありますか?
- 7 まとめ
登壇者プロフィール
株式会社PR Table / アカウントエグゼクティブマネージャー / 楠 拓也
早稲田大学文化構想学部を卒業後、エン・ジャパン株式会社に新卒入社。IT領域の人材紹介営業として事業立ち上げに参画し、マネジメントを経験後に人事部ヘ異動。自社の中途採用や新卒採用でのチームリーダーに従事した後、2020年にPR Tableに入社。talentbookのフィールドセールスとして、顧客への新規提案を経験後、現職に異動。既存顧客への提案・コンサルティング営業に従事。
LAPRAS 株式会社 / 共同創業者 / 二井 雄大
京都大学経済学部卒。楽天に入社し、ECコンサルティング職に従事。IoTベンチャーのQrioにて事業開発部マネージャーを経験後、株式会社scouty(現LAPRAS株式会社)を共同創業。創業以降、営業/CS/マーケティング/バックオフィスなど開発業務以外全ての領域を経験。これまでに200社超のカスタマーサクセスを担当。
LAPRASが考える採用広報の「時間軸」
二井:採用広報には立ち上げ期、継続期、スター期の、3つの時間軸があると考えています。
立ち上げ期はWeb上に情報を出し切れていないため、まだ成果が出る前の段階。エンジニアによるテックブログと採用向けのコンテンツを発信して、メディア自体にボリュームを持たせていく段階が継続期。施策が実を結び、高い採用目標を見据えて動く段階がスター期です。
大手かスタートアップかに関わらず、多くの企業は立ち上げ期に属していると考えています。採用広報を始めるにあたって、ブランドイメージを固めるところから入ろうとする企業は多いですが、実際にはもっと手前の段階の「どういう情報を出し、どういう反応が得られるか」が重要です。
立ち上げ期に的確な施策を打てるかどうかが、その後の成果に大きな影響を及ぼします。どうやって採用広報を始めようか、どうやって展開させていこうか悩まれている担当者の方も多いと思いますが、おすすめしたいのはとにかく1本記事をリリースすることです。
このときにポイントなのが、継続を前提としない記事であること。このステップを踏まずに、最初からターゲットに刺さる記事をしっかり作りこみ、継続を前提とした記事をリリースしようとすると、立ち上げが難しくなります。改めて企画会議をしなくても、カジュアル面談でいつも伝えている内容や、スカウトメールに必ず書いてる内容にリンクさせて1〜2本の記事を書き切るだけで、まずは十分な効果が得られると思っています。
エンジニアの工数が見えていないなど、コミュニケーション不足の状態で採用担当者がテックブログの企画を推進しても、結果はついてきません。自社の発信が足りていない状態でイベントを主催したり、カンファレンスのスポンサーをしたりしても、結果は同じです。まず採用担当者が自分で記事を書いて、数字としてある程度の成果が出た上で、継続期へ移行しましょう。
継続期の発信としてLAPRASの例を挙げると、有名なエンジニアの方を招待して社内向けの勉強会を開催し、YouTubeでも一般公開しました。その内容を記事化して、資料をSpeakerDeckで共有。一回の勉強会で、動画、記事、資料の3つのコンテンツを制作できました。これは採用したいペルソナの解像度が高まった上で、パワーのあるテーマを採用したことで、認知獲得のためのコンテンツ展開を最大化できた事例です。
このレベルの発信は連発できるものではなく、年に数本程度のイメージです。最初からここを狙うと大体失敗してしまうので、まずは着実に、採用担当者による記事作成から始めていきましょう。
採用担当者は、記事の受け取り手である候補者と直接コンタクトが取れます。カジュアル面談などを通して記事の感想を聞き、フィードバックを活かしてペルソナの解像度を上げることで、候補者に刺さる採用広報を展開できるでしょう。
PR Tableが提案する採用コンテンツの磨き方
楠さん:IT人材の不足が深刻化している中で優秀な人材を獲得するためには、前工程であるブランディングの部分が、かなり重要です。どのタイミングで転職希望者が動くかわからない今だからこそ、採用シーズンのみにコンテンツを発信するフロー型の採用活動ではなく、ストック型・運用型に変えていく流れが、採用のトレンドになってきています。
リブセンスさんのデータを見ると、エンジニア転職においての決め手になる項目は、トップ3が給与・待遇、ワークスタイルの魅力、そして社員の人柄・文化で、4位が開発技術・開発環境になっています。柔軟な働き方を求めるとともに、どういう社風で、どういうメンバーと一緒に働けるのかといった部分もかなり重要視されているのが昨今の傾向です。それぞれの項目においての、コンテンツ化のポイントを解説します。
給与・待遇面
そもそもエンジニアの平均給与は年々上がっている状況で、給与面、待遇面の情報開示は大切です。しかし、入社後すぐに高い給与を出せる企業ばかりではありません。そこで、どうしたら給与が上がっていくのか、評価制度の仕組みや制度設計の背景などを明示し、昇給できるイメージと納得感を醸成するコンテンツが必要だと考えています。
実際の事例としては、ナイルさん、サイボウズさん、メルカリさんがかなり有名です。ナイルさんに至っては、実際の評価と給与の考え方について完全公開しています。そこまでオープンにできる企業は多くないと思うので、制度にかける思いや導入背景など、ブラックボックスになりがちな部分を明白にして、会社としての姿勢や思想をコンテンツ化、可視化しましょう。
ワークスタイル・社風
入社後の自身の姿をどれだけイメージできるのかがポイントになります。社員のストーリーを通じて、「この人のように働きたい」「こういうキャリアを歩みたい」と思えるようなロールモデル、キャリアサンプルをできるだけ多く提示し、選択肢に幅を持たせましょう。
開発技術・開発環境
「こういった環境で技術を学びたい、磨きたい」と思っていただくために、開発チームが働く環境やニッチな開発秘話についてコンテンツ化していきましょう。プロダクトの社会貢献度について気にするエンジニアもいるので、プロダクトに対するこだわりをビジョンに紐づけて語るコンテンツも、採用において重要な役割を担います。
知名度は、高さ<内容。採用戦略における自社ブランディング
楠さん:大手企業とスタートアップ企業の知名度の高さを比較した際、もちろん大手企業のほうが優勢です。しかし、採用シーンにおいては知名度の高さよりも、どんな知名度を獲得できているかが重要だと考えています。
企業の規模に関わらず、業態がtoCかtoBかでも知名度の違いは生じます。例えばtoB企業の場合、業界内での知名度は高いものの、採用市場の中では知名度が低いため、まず企業自体の認知をしてもらう必要があります。その点においてはtoC企業が有利な面もありますが、サービスや商品から連想される企業イメージと実態とのギャップに悩む事例もよく耳にします。
toB企業は社名の認知や事業理解を推進するハード面からスタートするケースが多いですが、toC企業は社風や文化などを伝えてリブランディング的なギャップの解消を目指すソフト面からスタートするケースが多いです。
二井:弊社の事例で大手とスタートアップの差を感じた話としては、大手企業のクライアントが、採用後にアサインするプロジェクトが確定していない状態でエンジニア採用を進めているケースがありました。
ポジションありきで採用するか、事業部別に必要な人材を採用するかといった部分にも、大手とスタートアップの違いが出ると感じました。
先ほどの企業イメージとのギャップに関する事例では、AI企業がフロントエンドエンジニアの採用に苦戦する、ブロックチェーン企業がバックエンドエンジニアの採用に苦戦するというケースは多いです。
楠さん:知名度のある企業だからこそ起こり得る弊害みたいなものなので「自社の採用において、どんな知名度が必要なのか」が重要なポイントですね。
少し前であればテレビCMのようなマス広告は、知名度を一気に上げていく手法として有効でしたが、テレビ離れが進んでいる昨今の状況もあり、Web広告が増え、SNSに移行しています。
とにかく社名を出して名前を売る時代から変化していく中で、会社としてどう見られたいのか、見られた結果としてどんな人材を獲得したいのかまでを考えた広告を打たなくては、採用につながりません。
直近の話では凸版印刷さんが名前を「TOPPAN」に変えましたが、変える少し前から「印刷だけの会社ではない」とアピールする、リブランディングを図った広告を出していました。大手SIerのSCSKさんでも、知名度がないことを敢えて自虐的に語る広告が印象的でした。
単に知名度を高める方向ではなく、採用に繋がる知名度を獲得するために、どんな採用広報が有効かを考えて戦略を立てましょう。
大手とスタートアップで、採用リソースの使い方を変える
楠さん:採用広報において必要なリソースは、主に人材と資金の話になると思っています。
大手企業は人材も資金もありますが、採用人数も多く、同時にさまざまな施策が走っているので、結果的にリソース不足になっているケースが珍しくありません。潤沢なリソースを活かして、効率的かつ着実に進めるオペレーションの構築がポイントになります。
スタートアップ企業の場合、限られた人材と予算の最適化をどこまで図れるかがポイントです。大手の1000万とスタートアップの1000万では、かける思いが違う場合もあるので、最適な人材のアサインと、予算の使い方がになります。
二井:人的なリソース形成面で言えば、スタートアップのほうが大手よりも恵まれた状況をつくれる可能性もあると考えています。
まず、スタートアップはプロジェクトやステークホルダーの規模が比較的小さいですよね。だからこそ、カジュアル面談に経営者やCTOが出席したり、現場のエンジニアが採用活動に参加したりする構図をとりやすい。スタートアップの機動力があれば、人材や資金面のリソース不足をカバーできると考えています。
採用広報Q&A
限られた予算の中で、認知度を上げるために最低限やるべき取り組みについて教えてください。
二井:企業規模にもよりますが、予算がない中で候補者の認知を獲得する手段としては、ダイレクトリクルーティングやスカウトが一番採用に近い部分で有効だと考えています。
予算が限られている=採用ボリュームがある程度小さいと仮定した場合、候補者個人へのスカウトから順番にマスに向かっていく形で、まずはより採用コンバージョンに近い施策から始めましょう。
楠さん:冒頭の二井さんのお話にあったように、記事を1~2本書いて最低限必要なコンテンツをまずは揃えて、手順を踏んだ上で認知広告を打っていく流れがいいと思います。
最近、CMやデジタルサイネージのようなマス広告を、企業のブランディング目的ではなく採用目的で実施する企業が増えていますが、広告を見て興味を持ってもらえても、会社について調べたときにコンテンツ不足で情報に辿り着けなければ意味がありません。
予算がない中で無理をしてマス広告に手を出す必要はないので、焦らず着実に採用近いところから揃えていくことが大事だと考えています。
採用広報は基本的に中長期の施策になることが多いですが、各施策の効果を測定する、おすすめの検証方法はありますか?
二井:まず絶対やっていけないのは、最初にKPIを設定することです。採用広報以外のマーケティングやPRの世界でも、KPIの設定は非常に難易度が高いです。KPIありき、効果ありきで取り組むと失敗する可能性が高く、推進しにくいジレンマを抱えてしまう構造ができてしまいます。KPIを設定せず、計測はきちんとするスタンスを、関係者全員が理解しておくのは絶対的な前提条件だと考えています。
一般的なところではPV計測などが挙げられますが、カジュアル面談で自社のコンテンツの感想を聞いて、読んでいる人数や読まれたコンテンツの比率を測定するなどの施策を、期間を決めて実施してサンプルを取る方法もあります。すごく手のかかるやり方ですが、ペルソナの解像度を上げる意味でも有効な手段であり、ペルソナが見えてくるとKPIも自動的に設定できます。
楠:私も、KPIの設定はおすすめしません。もちろんPVなどのさまざまなデジタルデータを追いかけることも重要ですが、中長期的な施策において一喜一憂しても仕方ないですし、一喜一憂をしすぎてやる気がなくなってしまうと採用広報が進まなくなってしまいます。
せめて1年目だけでも設定せずに、やれることをやっていくところからスタートをして、1年目で出た数字を2年目でブラッシュアップしていく流れで、着実に進めていくことが重要だと考えています。
二井さんのおっしゃる通り、ペルソナが見えてくると、コンテンツの課題や設定すべきKPIが見えてきます。例えば記事の滞在時間を見て、1分ぐらいを確保できれば理解してもらえていると仮説を立てた上で、滞在時間をKPI化していくような形がいいと思います。
弊社では採用は人事、広報は経営企画、エンジニア採用の各種ハンドリングはエンジニアが担当しています。この場合、誰が採用広報の舵取りをするのがベストでしょうか?
二井:技術広報についてはCTOやエンジニア主体、採用広報は採用担当がまとめたほうが良いと思ってます。ペルソナが一番見えている採用担当者が、ステークホルダーのマネジメントをして推進するべきだと考えているためです。
楠さん:私も同じ意見です。得意分野は得意な方に任せつつ、どれだけ連携ができるのか、どうハンドリングをしていくのかが大切になってきます。人事と広報の連携ができず、各々で施策を進めてしまっている企業も少なくない印象ですが、一旦ミニマムなチームを組んで、密に連携を取るっていうところが大事になってくると思います。
広報チェック等が入り、コンテンツの公開まで時間がかかるケースが多いです。スムーズに進めるためには、どのような取り組みが必要でしょうか?
楠さん:企業のイメージやブランディングなど、大切なものを守るためのチェックなので、大幅に変革してスムーズに進めるのは難しいと考えています。
記事制作側ができる取り組みとしては、広報のチェック項目を抑え、企業の方針を理解しながらコンテンツを制作していくことだと思っています。弊社の場合、依頼元の企業からレギュレーションなどをすべて共有いただいた上でコンテンツを制作したところ、2週間から1週間に制作期間を短縮できました。
先ほどの採用広報における連携体制にも繋がる話になりますが、広報を別部署としてとらえず「ワンチームで制作している」という考え方が大事だと思っています。
採用広報を進めていく上でのモチベーションの保ち方、効果実感の方法にはどのようなものがありますか?
楠さん:わかりやすいところでいうと、カジュアル面談などで候補者の方から直接「記事を読んで興味が湧きました」のような反応をいただけたり、製作したコンテンツがメディアに転載されたりすると、成果を実感できますし、自己肯定感も高まります。
私の個人的な意見ですが、採用広報は正直面倒なことも多いと思っています。私自身、人事担当をしていた時代は、採用コンテンツをつくるよりも面接を優先したいと考えていました。
しかし、コンテンツづくりは、より素晴らしい人材を採用するためのきっかけづくりです。コンテンツづくりそのものにモチベーションを見出すのではなく、採用広報によって得られる成果を重視していくといいと思います。
もちろん採用が毎回上手くいくとは限らず、そうなるとモチベーションにつながる成果を得られません。いきなり大きく動くのではなく、まずは自身および現場の工数が負担になりすぎないようなサイズ感で進めていきましょう。
二井:立ち上げ期におけるモチベーションを保つ方法は、直接効果を感じられるものから始めることです。
カジュアル面談や、入社後の面談などで、コンテンツに関するヒアリングの時間を取るなど、受け取り側との接点数を増やしましょう。これはペルソナの解像度を上げる観点からも大事なプロセスですし、自己肯定感も上がります。直接的な効果が出にくい施策は、それから着手するといいでしょう。
採用広報チームの士気が高く、自発的にどんどん記事を書いたり施策を打つ空気があった場合は、立ち上げ期に効果を実感できなくてもパワーで乗り切れるケースもあります。
このあたりはチームのバランスを見ながら調整していきたいですね。
まとめ
採用広報を成功させるには、まずは負担が少なく、採用に直結する最低限必要なコンテンツを揃えるところから始めましょう。コンテンツの作成にあたっては、どんな人材を採用したいのか、自社が候補者にどう見られたいのかを意識したブランディングも重要です。
その上で、大手企業はリソースが豊富なリソースを運用するためのオペレーションを構築し、スタートアップ企業は機動力を活かして限られたリソースを最適化する、それぞれの特長を活かした戦略が採用に繋がります。
当イベントで共有した情報を、貴社の採用広報戦略に活かしていただけますと幸いです。
(ライター:成澤綾子)